2012 Fiscal Year Research-status Report
大局的3次元輻射磁気流体計算によるブラックホール・アウトフローの構造と進化の研究
Project/Area Number |
24740127
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | National Astronomical Observatory of Japan |
Principal Investigator |
大須賀 健 国立天文台, 理論研究部, 助教 (90386508)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ブラックホール / ジェット / 磁気流体シミュレーション / 輻射輸送 |
Research Abstract |
ブラックホール周囲にはブラックホールに吸い込まれるガスの流れに加え、遠方に向かって高速で噴出するガスの流れが存在することがわかってきた。このパワフルなガス噴出流はブラックホールの成長過程や周囲の星形成過程に影響を与える可能性が示唆されている。 この噴出流の構造や生成メカニズムを調べるため、本年度は相対論的輻射磁気流体計算法を新たに開発した。また、輻射輸送に関してはこれまで広く使われていたFlux-limited diffusion近似を採用せず、M1法と呼ばれるよりよい方法を採用した。M1法を用いた相対論的輻射磁気流体計算コードを開発したことは、それ自体が世界初の成果である。このコードを用いて輻射圧優勢な降着円盤およびそこから噴出する輻射圧駆動型ジェットを調べたところ、極めて大きな速度を持つジェットの芯の周りに、比較的速度の小さな流れが発生することがわかってきた。これは相対論的輻射流体効果である輻射抵抗が速度の上昇を妨げているためである。また、円盤内部では磁場による角運動量輸送が卓越するものの、輻射による角運動量輸送も無視できないことがわかった。 上記のジェットは電子散乱による輻射の力でブラックホール近傍から噴出するものであるが、金属元素の束縛束縛遷移吸収の際に生じる輻射の力(ラインフォース)により、ブラックホールの比較的遠方で発生する円盤風についても研究を行った。具体的には円盤表面から噴出する流体要素の軌道をラインフォースを考慮してラグランジュ的に解いた。これはラインフォース駆動型円盤風のおよそのメカニズムを理解するとともに、次年度に計画予定の流体シミュレーションの準備にもなっている。結果、ラインフォース駆動型円盤風の開口角は非常に大きく、観測されている吸収線を説明する有力な理論モデルであることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は新たな数値計算コードの開発からスタートする必要があるため、研究の準備に多くの時間を割く必要があると思われたが、予想以上に順調にコードの開発を進めることができた。よって輻射圧によるガス噴出流の生成および輻射抵抗によるガス噴出流の速度抑制を解明することができた。また、新たな輻射輸送計算法を導入した相対論的輻射磁気流体計算は世界的に見ても未だ成功した例はなく、計算コードの作成に成功したこと自体が世界初の成果である。初年度に新規にコード開発を終え、ジェットの構造に関して新たな知見を得られたことから本研究計画は順調に進展していると言える。 また、円盤風の生成過程やその構造についても、第一段階の成果を出しつつ、順調に流体シミュレーションの準備が進んでる。次年度は本格的に円盤風の生成・分裂をターゲットにした流体シミュレーションが実行できるであろう。分裂過程に限れば現象を再現するだけでなく、その物理メカニズムを明確に理解するための数値計算の準備を進めており、現在最終段階にある。 以上のことから本計画はおおむね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に開発した相対論的輻射磁気流体力学コードは十分に世界最先端の成果を出せるものであるが、磁場の取り扱いや輻射輸送の解法をさらに発展させることが可能である。特に輻射輸送の解法をより厳密な手法へと発展させることは、光学的に厚い領域と薄い領域が入り交じったような複雑な構造を解き明かす場合に必須となる。これを行いつつ、輻射圧優勢円盤およびジェットの構造を詳しく調べて行く。国立天文台の並列計算機「XC30」で準備計算を行いつつ、「京」で本格的に計算を行う計画である。 ブラックホールから比較的遠方の領域で噴出するラインフォース駆動型円盤風やガス流の分裂現象に関しても並行して研究を進めて行く計画である。ラインフォースは、ドップラーシフトによって効率的になり、金属元素が高階電離することによって非効率になるので、アフトフローの速度分布や電離状態は注意深く扱う必要がある。ラインフォースを厳密に評価するのは原子の量子状態まで解く必要があるので現状では困難であるが、フォースマルチプライヤーと呼ばれるフィッティング関数を採用することで大まかに可能となる。そこで、まずはフォースマルチプライヤーを採用し、これまで調べられていなかった円盤風の発生・分裂過程を調べる計画である。分裂に関しては輻射場中の流体不安定が起因となる可能性が高いため、円盤風を部分的に抽出した補足計算でその物理過程を解明することも計画している。 以上のように、流体シミュレーションを駆使してブラックホール周囲で発生するジェットや円盤風の構造や物理メカニズムを調べて行く。得られた結果をもとに輻射スペクトルを理論的に作り出し、観測結果と理論モデルを直接比較する研究も並行して実行する計画である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
これまでに得られた成果を発表するため、海外で行われる国際会議への参加を予定している。実際、既に2件の招待講演の依頼を受けており、アメリカおよびネパールへ渡航予定である。このための旅費としておよそ40万円使用する計画である。また、国内の会議へ参加するため10万円ほど旅費を使用する予定である。加えて、シミュレーション結果の解析のためのコンピュータおよびソフトウェアを購入する必要がある。これにおよそ20万円使用する予定である。
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Research Products
(12 results)