2012 Fiscal Year Research-status Report
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24740144
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
佐々木 健志 筑波大学, 計算科学研究センター, 研究員 (80457134)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | ストレンジネス / バリオン間相互作用 / 格子QCD / 量子色力学 / 理論核物理 |
Research Abstract |
本研究の目的は、強い相互作用の基礎理論である量子色力学(QCD)から、実験的情報が非常に限られているストレンジネスS=-2のバリオン2体系の相互作用を直接求め、Λ粒子を2個含む安定な原子核(ダブルΛハイパー核)の存在範囲に関する予言や、ストレンジクォークを2 個含んだ6個のクォーク状態であるH-ダイバリオンの存在可能性に関する提言を与える事にあります。 S=-2の2バリオン系は現在稼働中のJ-PARCにおける核物理研究の主要テーマとも直結しており、実験的研究が着々と進む一方で、ΛΛ相互作用の理論的不定性によりダブルΛハイパー核の構造研究がなかなか進まないという現状があります。このような状況を打破するためにも、格子QCDによるΛΛ相互作用の決定が待たれています。 平成24年度は、JLDG/ILDGで公開されている(2+1)flavorのCP-PACS/JLQCDグループにより作成されたゲージ配位の中から比較的重たいクォーク質量を与える配位利用し、ΛΛ状態を含むS=-2の2バリオン系の波動関数を系統的に計算し、結合チャンネルを考慮したポテンシャルの導出に成功しました。ただし、このゲージ配位では1辺が2fmの小さな体積しか持たないために、相互作用の遠方の振る舞いに関しては明確な結論を出すことが出来ず、近距離の振る舞いについて主に議論を行いました。 この計算により、大きな格子サイズでの計算に備え、ΛΛ状態を表す演算子の妥当性に関する議論を行い、ΛΛ相互作用における近距離斥力の存在を明らかにしました。また、クォーク質量の変化に伴うΛΛ相互作用の変化が近距離で大きく、質量の減少に伴って斥力芯の高さが徐々に高くなる事を明らかにしました。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は、JLDG/ILDGで公開されている(2+1)flavorのCP-PACS/JLQCDグループにより作成されたゲージ配位を利用し、ΛΛ状態を含むS=-2の2バリオン系の波動関数を計算し、結合チャンネルを考慮したポテンシャルの導出に成功しました。 シミュレーションコードの最適化により当初の予定を超えて、ストレンジネスS=-1~-4までの2バリオン系の波動関数を計算することが出来たが、それらの解析計算が間に合っておらず、当初の予定であったS=-2の2バリオン系のポテンシャルだけしか導出が出来ませんでした。 今後の研究では、計算された膨大なデータから、ストレンジネスS=-1~-4までの2バリオン系の波動関数を計算することが可能となったが、一方で膨大なデータの保存方法や、それらの処理方法を工夫するという新たな問題について考えなければならない事が分かりました。 ただし、この問題は研究とは異なる問題であり、処理方法さえ確立すればバリオン間相互作用の系統的な解析が可能となり、予想以上の成果が得られると考えられます。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、ハドロンの質量が現実に近く、これまでよりも体積の大きな格子での計算を実行します。この計算により、バリオン多体系の計算に直接適用可能なΛΛ相互作用が得られ、また、H-ダイバリオンの存在に関する有無についても有効な情報が得られると考えています。 具体的にはPACS-CSグループにより作成された一辺が3fmある格子上での計算を行い、その結果をまとめ、現実の物理点におけるシミュレーションに向けての計算を行います。大きな体積での計算により、低エネルギーの物理で非常に重要となる相互作用の遠方での振舞いについて議論が可能になると考えています。 小さな空間の格子上での計算を基に、大きな体積での計算への拡張は容易であることが明らかになったので、これまでと同様のシミュレーションを行いバリオン間力のクォーク質量依存性や、バリオン間力の近距離斥力の起源について、現実に近づくにつれてどのように変化するのかをこれまで以上に詳しく解析してゆきます。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は、平成24年度に行ってきた膨大なデータをまとめ、バリオン間力の結果とH-ダイバリオンの存在可能性に関する計算結果の発表を行う予定です。 特に、ヨーロッパを中心にストレンジネス核物理の関心の高まりを考慮し、格子QCDによるハイペロン力の結果を公表し、期待される物理に関する議論を密におこなう必要があると考えられ、そのための旅費が必要となります。 また、予定していた以上に多くの系に関するバリオン間相互作用のデータを得られることが分かってきたので、計算結果を保存するためのストレージが予定していた以上に必要となり、これらの保存用に予定していた以上のストレージの購入を考えています。
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