2012 Fiscal Year Research-status Report
K中間子重水素原子分光のためのシリコンドリフト検出器の基礎研究
Project/Area Number |
24740147
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐藤 将春 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 特任研究員 (50554044)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | K中間子原子 / シリコンドリフト検出器 |
Research Abstract |
本研究はK中間子重水素原子X線分光の実現を目指し、その主要なX検出器であるシリコンドリフトX線検出器(SDD)の基礎性能研究である。本年度は、SDDのテストを行うためのテストベンチクライオスタット並びに読み出し系の整備、さらには個々のテストに必要となる部品の設計、基板の制作を行った。まず水素ガス雰囲気での動作挙動の試験の為に、SDD一機が丁度収まる程度の小型耐圧チェンバーを作成し、室温での気密試験・2気圧での耐圧試験に成功した。そして、このテストチェンバーをクライオスタット内に配置してSDDの最適動作温度である100K付近での温度領域での水素・重水素雰囲気での動作確認をする準備が整った。また、並行してSDDのバックプレーンからのホール読み出しに対する時間分解能の向上に対しては、読み出し用基板の試作を行った。当初、この基板はノイズに弱く、鉄55線源のK線が分離できない程の悪いエネルギー分解能(FWHM~300 eV)しか得られなかったが、ノイズ対策を施した結果、エネルギー分解能で150~160eV を達成した。これは、通常のSDDのエネルギー分解能の最高値には少し及ばないが、観測対称であるK中間子水素ないし重水素原子のKα線のエネルギーシフトおよび自然幅は数百eVであると予想されるため、本研究では十分なエネルギー分解能である。このようにして、エネルギー分解能に関してはバックプレーン読み出し用試作基板でも十分な性能が得られることが分かったが、バックプレーン側のシグナルが極めて小さい為、後段のプレアンプが必要であることが判明した。そのため、次年度では、後段のプレアンプの作成および、時間分解能の測定等を行い、SDDのK中間子重水素原子X線分光に向けた性能研究を完了する事を目指す。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の第一の目標としてはシリコンドリフト検出器の性能試験を行う為の装置一式の整備がまず最低限達成すべき段階であった。そのため、必要な機器の整備を完了し、実際のSDDの鉄55線源によるスペクトルを取得出来たので、まずは第一段階は達成されたといえる。一方で本研究で極めて重要である、時間分解能の向上に対しては、ホール読み出しの準備は整ったが、シグナルが期待していたより小さかった為、更なる改良が必要ということが分かった。これは研究開発においては常に試行錯誤する過程が発生する為、本研究においても進捗状況に問題無いと考えている。また水素ガス雰囲気中でのテストは、最終的に実験で動作させる環境が断熱真空中に水素ガス標的セルが設置される為、耐圧強度・機密性能を兼ね備えている必要がある。シグナルケーブルの読み出しやリークタイトの方法などの設計に試行錯誤したが、結果的に試験可能なチェンバーを作成出来、本年度の状況としては満足している。このチェンバーを用いた試験はすぐにもテスト可能な状況にあり、次年度早々にも行う予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度は本研究の最終年度である為、今年度で主に整備した試験用機器を用いて、性能試験を繰り返し行っていく。特に、水素ガス雰囲気中でのテストは次年度早々には完了する予定であり、バックプレーン読み出し用の試作基板の改良も次年度早期に取り掛かり、次年度前半には時間分解能の導出までを導出したいと考えている。また、それらと並行してSDDの磁場中での動作試験を行いたいと考えており、現在磁場中での動作試験が行える場所を選定中である。これには、SDDが液体窒素などの冷媒を必要とするため、試験に必要なすべての条件が整った施設の選定は難しいが、次年度夏前までに方針を決めて秋以降にはテストを行いたいと考えている。それらの試験の後、ある程度結果が導出できた段階では、国内外を問わず結果を学会等で報告する事を考えている。またそれらの結果によってSDDの本実験環境下における最適動作条件を決定し、実機制作へ向けた設計やより現実的な条件でのモンテカルロシミュレーション等を行って、詳細な実験フィージビリティを検証する事を目指す。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度には主に本年度に整備した機器を用いての性能試験を中心として進めていく。その過程で必要な装置のアップグレードや試作した基板に対しての変更・修正などが必要となるため、それらを中心に研究費を使用していく予定である。また、今後予定している磁場中の動作テストなどに向けた新たなチェンバー等が必要になる可能性があるが、これらは今までに制作したチェンバーに若干の改良を加えることで対処できると考えている。それらの部品としては、主に治具といった比較的少額で作成できるものであるため、次年度における予算の範囲内で実行可能であると考えている。また、本研究によって得られた研究成果を進捗状況と照らし合わせて、国内・国際学会等で報告する予定であり、その為の出張旅費として一部研究費を使用する予定である。
|
Research Products
(4 results)