2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24740151
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
伊部 昌宏 東京大学, 宇宙線研究所, 准教授 (50599008)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 超対称標準模型 / R-対称性 / LHC / ヒッグス粒子 / 暗黒物質 |
Research Abstract |
本年度報告されたヒッグス粒子と考えられる粒子の発見によって素粒子の標準模型は完成されつつあり、素粒子物理はいよいよ新物理を追求する新たなステージに入ったと考えられる。特に発見されたヒッグス粒子の質量が 126GeV 程度であるという事実は標準模型の背後にある新物理の候補に対して強い制限を与え、大きなヒントとなる。 今年度の私の研究実績として LHC で発見されたヒッグス粒子の質量を超対称理論の枠内で非常に簡潔に説明する模型を提案し、さらにその模型の検証方法についての考察を行ったことが挙げられる。最小な超対称標準模型では 126GeV 程度のヒッグス粒子は重い超対称粒子を示唆している。私が共著者と共に提案している "Pure Gravity Mediation Model" では標準模型の物質粒子の超対称対(スフェルミオン)およびヒッグス粒子の超対称対(ヒッグシーノ)は 100TeV-1000TeV 程度と重くなることでヒッグス粒子の質量を説明する一方、ゲージ粒子の超対称対(ゲージーノ)は TeV 程度となる。この模型はヒッグシーノおよびゲージノの質量がそれぞれ R-対称性の破れを通して理解される点が特徴的である。今年度はその模型の詳細な性質およびLHC実験における検証可能性について考察を進めた。 今年度の他の研究実績として、離散的R-対称性と標準模型の世代数の関係についての研究が挙げられる。私は共著者と共に統一理論のエネルギースケール以下に最小超対称標準模型以外に標準模型のゲージ対称性の電荷を持つ粒子が存在しない場合に量子異常による破れを伴わない離散的R-対称性を要請すると世代数が3以上必要となるということを示した。これはミューオンが発見されると共に生じたいまだ解けていない世代数の謎に対して一つの解答を与えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題における研究目的の達成度としては順調に進展している。特に、LHC実験で発見された 126GeV 程度のヒッグス粒子を非常に簡潔な模型で説明出来る "Pure Gravity Mediation Model" の提案および考察が非常に順調に進展した。この模型はヒッグス粒子の超対称対(ヒッグシーノ)およびゲージ粒子の超対称対(ゲージーノ)の質量がそれぞれ R-対称性の破れによって生じると仮定する事で構築された模型である。この模型で 126GeV 程度のヒッグス粒子を説明するには超対称対(スフェルミオン)は 100TeV-1000TeV 程度と重くなるが、R-対称性によってゲージーノの質量は TeV 程度となり LHC で検出可能である。私は共著者とともに LHC 実験が 14TeV で計画通り 300/fb データを取った場合に到達可能なゲージーノの質量領域をシミュレーションによって示した。さらにこの模型では W-ボゾンの超対称対(ウィーノ)が最も軽い超対称粒子となって安定となり、暗黒物質となり得る。実際、ヒッグス粒子の質量からウィーノの質量が TeV 程度であることが示唆されており暗黒物質の量を矛盾無く説明出来ることを示した。またウィーノ暗黒物質が非熱的過程により生成された場合の宇宙小規模構造への影響についても解析した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の推進方策の一つとして R-対称性とその破れを基軸とした "Pure Gravity Mediation Model" の現象論および宇宙論的考察を続ける予定である。現象論としては LHC 及び ILC での観測可能性のさらなる追求を計画している。また宇宙論と関連してウィーノ暗黒物質の宇宙線観測を通じた間接的検証の考察を進める予定である。最近の目覚ましい宇宙線観測の進展をウィーノ暗黒物質の間接検証は非常に期待出来ると考えている。 R-対称性が自発的な破れの機構に伴うインフレーション模型についても考察を進める予定である。現実的な超対称模型においては、平坦な宇宙を実現するためには(離散的な)R-対称性が自発的に破れる必要がある。R-対称性を自発的に破る場のスカラーポテンシャルは平な領域を持つためインフレーションが起き得る。その種の模型ではインフレーションのエネルギースケール及びインフレーションの揺らぎのスペクトラムがR-対称性の破れと関係が着くため、宇宙の背景放射(CMB)の揺らぎの観測から得られる宇宙論のパラメータと "Pure Gravity Mediation Model" の超対称対の質量領域を結びつけることが可能となる。今後 Planck 衛星による CMB 観測の結果を用いて "Pure Gravity Mediation Model" に対しどのような示唆が得られるかについて考察していく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度計画していた研究会参加のうち別業務等によって参加出来ないものがあったため一部繰り越しとなった。次年度は参加可能な研究会が増えるためその旅費に当てる事を考えている。
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Research Products
(8 results)