2012 Fiscal Year Research-status Report
多次元輻射流体計算を用いたガンマ線バーストジェットの研究
Project/Area Number |
24740165
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
長倉 洋樹 京都大学, 基礎物理学研究所, 研究員 (00616667)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 輻射輸送 / 相対性理論 / 宇宙 / ジェット |
Research Abstract |
本研究では、多次元の相対論的輻射流体コードを開発し、本コードを用いた相対論的ジェット伝搬の数値シミュレーションを実行し、大質量星の終焉から発生していると考えられるガンマー線バーストジェットの理論メカニズムの解明に向けた研究を行う。前年度までは、相対論的輻射流体コード開発を行いつつ、世界で初めてのガンマー線バーストの中心エンジンとリンクさせた2次元軸対称のジェット伝搬の流体計算を行った。本研究結果はThe Astrophysical Journalに掲載され、さらに国内外の研究会で発表し、また海外での招待講演も行った。 また、現在開発中の輻射流体コードは、M1 Closureに基づく定式化を用いているが、6次元の特殊相対論的ボルツマン方程式の定式化、かつSelf-Consistentに解く数値コードの開発を行い、テスト計算を行った。現在、本テスト計算結果についての論文を執筆中である。特殊相対論的ボルツマン方程式のコードは、光子の輸送だけでなく、大質量星の重力崩壊の結果生じるニュートリノ輸送計算に用いる事ができ、ガンマー線バーストの中心エンジンの機構を調べる上でも重要な計算である。但し、これらのテスト計算は流体へのバックリアクションを無視したものであり、現在そのバックリアクションも込みのテスト計算を実行しているが、こちらは完全にはうまくいっていないのが現状である。主に相対論的効果によるエネルギーシフトの効果を取り入れる事が難しく、これはM1 Closureの定式化でも同様の問題を抱える事になるため、現在はこの問題に取り組んでいる。 また、理化学研究所の研究員、伊藤裕貴氏、及び東北大の学生の石井彩子氏と共にモンテカルロ計算による輻射流体コードの開発も行っており、現在、衝撃波近傍の光子輸送のテスト計算を行っているところである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までのところ、研究は概ね順調に進んでいる。既に完成している、相対論的流体コードを用いて、星中のジェットの伝搬を行い、中心エンジンとリンクさせた研究を昨年度行った事は、今後の輻射流体コード完成後の計算のよい準備となった。それは、星を突き破った後、ジェットが星間中を伝搬し、輻射流体による計算が必要となる直前までの、よい初期条件ができたためである。また、中心エンジンに関しても、主にニュートリノメカニズムでのジェット形成のモデルを我々のグループでは考えているが、詳細なニュートリノ輻射流体計算を行う前に、どのような親星の特性(具体的には、回転や密度分布)がガンマー線バーストの親星にとって都合がいいのかを、昨年度の研究である程度絞り込む事ができた事も重要な結果である。 しかし、輻射流体計算における、相対論的効果によるエネルギーシフトを取り込む事は、定式化は昨年度に完成はさせたものの、コードテストでうまくいっていないところがある。相対論的に物質が動くと、その物質が動いている系と、実験室系との間で、光子やニュートリノの位相空間内での配置がかわり、これを有限差分によるエネルギー、角度メッシュで、どのようにこの効果を取り入れるかは、まだ誰も成功させたことのない事である。我々は、これを定式化し、相対論的効果による角度方向の歪みは、角度変化をヤコビアンで扱う事で、十分な精度で取り込める事には成功したが、エネルギーシフトには、非常に精度のいい内挿が必要となり、現在はこの問題にトライアンドエラーの状況である。昨年度の後半は、この問題を中心に取り組んでいたため、若干研究の進み方が減速されてはいるものの、この問題は今後の研究では解決すべき必須問題であるので、今後優先的に取り組む課題としている。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度に最初に取り組むべき課題は、相対論的効果による慣性系の間でのエネルギーシフトの影響を、輻射流体コードに取り込む事である。現在は、光速の約10パーセント以下の速度で動いている場合でのみ、その効果を取り込む事は成功しているものの、これより速くなった時に問題が生じているのでこれを解決したい。そして、この問題が解決した時点で、論文を執筆する。しかし、ローレンツファクターが100を超えるような、超相対論的な流れでは、現在のアプローチがうまくいくかは未知であり、うまく行かない場合には、新たな方法を考える。 エネルギーシフトの問題が解決した後は、これまで作成した相対論的Boltzmann Codeと比較しながら、M1 Closureに基づいた輻射流体コードの作成に取りかかる。まずは、流体へのバックリアクションを無視したもとで、輻射場の定常解を求める。非相対論的でかつニュートリノ輻射場でのテスト計算は、Boltzmann Codeで既にテスト計算を行い、これには成功しているので、これを光子場に拡張してテスト計算を行おうと考えている。 今年度は、上のテスト計算を基に、コードの骨組みの完成を目指すが、仮に研究が予定よりも早く進んだ場合には、流体へのバックリアクションを考慮した1次元球対称のテスト計算を実行する。Boltzmann Codeにおけるニュートリノ輻射場においてのこれらの計算は、既に行っており、これをM1 Closure Codeでも同様の計算を行い、2つの違ったアプローチで、定性的、定量的な比較を行いたい。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
昨年度は若手Bの研究費を用いてワークステーションの購入予定であったが、研究室で数台のワークステーションを購入して、これをほぼ独占的に使用する事を許されたため、ワークステーションの購入を見送った。そのため、昨年度の研究費は、このワークステーションの購入費用が余った形となった。 今年度は、研究室の異動があるため、これまで使用していたワークステーションが使えなくなるため、京都大学で新たにワークステーションを購入する予定である。また研究室の異動と同時にこれまでの計算データも移す必要があるため、20TBクラスのハードディスクの購入も検討している。但し、異動してから数ヶ月は早稲田でのコンピュータのの使用は許されているため、ワークステーションの購入よりも、ハードディスクの購入の方が優先度は高い。 それ以外は、出張費や論文掲載費、そして物品購入費に研究費を使用する予定である。現在の取り組んでいる相対論的効果を取り入れた輻射輸送コードができた段階で、論文執筆はもちろん、海外での研究会で発表したいと考えているので、この費用として使用予定である。また、沼津工業専門学校教授の住吉光介氏、早稲田大学教授の山田章一氏、理化学研究所の伊藤裕貴氏、そして東北大学准教授の大西直文氏及びその学生の石井彩子氏らと輻射輸送計算の研究打ち合わせを頻繁に行うため、その旅費に研究費を使いたいと考えている。特に石井氏はまだ院生であるため、彼女の学会費用なども、余裕があれば出費したいと考えている。
|
Research Products
(15 results)