2012 Fiscal Year Research-status Report
r過程経路上の中性子126近傍核の高純度かつ高効率分離収集用ガスセルの開発
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24740180
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
平山 賀一 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 助教 (30391733)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 国際情報交換 / ベルギー / ガスセル / レーザー共鳴イオン化 / 元素合成 |
Research Abstract |
金、ウラン等の重元素を合成する速い中性子捕獲過程の起源となる天体環境の解明を目指し、中性子数N=126の安定閉殻の精密ベータ崩壊核分光実験を行う。そのために、多核子移行反応で生成される希少原子核を高速かつ高効率で分離、収集可能な単一原子核ビーム生成用ガスセルを流体シミュレーションを元に設計し製作した。ガスセル内に設置したフィラメントから蒸発した中性原子のニッケルや鉄を用いたオフライン試験と、理化学研究所の加速器から供給された鉄ビームを用いて、ガスセルシステムの性能試験を24年度に行った。 オフライン試験では、大口径となる出口穴直径1mmのガスセル(50kPa)の差動排気に成功し、0.0001 Paまで圧力を下げることにより、加速電圧28kVでのビーム引出しに成功した。これにより高速なイオン引出しが可能となる。鉄イオンの引出し時間を測定したところ、約190ミリ秒であり流体シミュレーション通りに引出すことができた。先行しているルーバン大学(ベルギー)の5倍となる大体積(500cc、不安定核捕集効率が5倍良い)から2.5倍の速さで引出すことができ、シミュレーション比較から引出効率が10倍以上良いガスセルシステムができた。 ガスセル内部にビームを打ち込むとビーム軌道に沿ってアルゴンプラズマが生成される。このプラズマからの放射光がレーザーイオン化したイオンの再中性化および不純物イオン除去用イオン収集電極の性能低下を引き起こす。対策としてガスセル内部に遮光壁構造の流路を導入している。オフラインでイオン収集電極の性能試験を行い、不純物イオンを設計通りに除去し、電場印加により1/10000以下に不純物数を低減できた。 オンライン試験で引出効率0.5%、不純物除去率1/20を測定した。これは予測値よりも低く、遮光壁の構造が不十分であったと考えられるので、この部分だけを作り替える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定通り高速なガスセルを設計、製作し、加速器を用いて鉄ビームをガスセルに打ち込み、ガスセルの性能試験を実施することができた。イオン抑制機構として導入した遮光壁の構造と工作精度が悪く、目的の効率には一桁届いていない。不純物除去率もオフライン試験時の500分の1と非常に悪い。遮光率の向上した構造を設計し再製作した後、オンライン実験を行う。 またオンライン実験時には核子あたり90MeVの鉄ビームをガスセル入口直前で核子あたり1MeVに減速している。その際に減速材から放出される高強度ガンマ線シャワーがガスセル全体に照射され、ビーム軌道以外の場所でプラズマが生成され、引出効率と不純物除去率の低下を引き起こしたと考えている。核子あたり10MeV程度の低エネルギービームを利用することで、これらの問題を克服可能と考えている。今回使用した鉄のレーザーイオン化様式を見直すことでイオン化効率が向上し、全体の効率を上げ得ると考えている。今年度予定していた計画を概ね進めることができた。 25年度にはアルゴンガスおよびガスセル内部を140K程度まで冷却して不純物となる水分子を0.01ppb程度まで除去する予定でいるが、先行して24年度に行った。アルファ線源をビームの代わりにガスセルに照射することで小さなプラズマをガスセル内部に生成し、その際に生成される不純物イオンの質量分布を測定することで不純物の種類と強度をオフライン試験で知ることができた。主な不純物は炭化水素化合物と水分子であることがわかった。これらの不純物除去のために、ガス供給ラインに純化機を2段階で使用し、ガスセルをベーキング(390度)することで不純物濃度を0.01 - 0.1ppb程度(測定限界以下)に抑えることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
引出効率と不純物除去率を向上させるために、以下の項目の研究開発を行う。 1. オフライン試験で鉄のレーザーイオン化様式の見直しを行うことで引出効率を向上させる。2色のレーザーを同時に照射することでイオン化している。2段階目のレーザー強度が弱いのと、励起状態から自動イオン化状態へ遷移する光子吸収断面積が小さいと考えられるので、レーザー強度の増強と新たな自動イオン化状態の探索を行う。他元素のレーザーイオン化様式を参考にすると一桁程度、効率が向上する見込みがある。 2. 遮光壁の構造を改良し、放射光がレーザーイオン化領域およびイオン収集電極領域に漏れないようにする。それによりイオン化効率の向上と不純物除去率向上をはかる。 3. 鉄ビームを減速する際に放出される高強度ガンマ線の強度、およびガスセル内部に生成するプラズマ濃度をシミュレートし、引出効率と不純物除去率低下にどの程度関与していたかを見積もる。将来的には低エネルギー(核子あたり10MeV)のビームを利用する予定なので、この問題は克服できると考えているが、現状での改善の余地を調べる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(4 results)