2012 Fiscal Year Research-status Report
爆発的元素合成過程における質量数160近傍の希土類元素ピーク形成の解明
Project/Area Number |
24740188
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
渡邉 寛 独立行政法人理化学研究所, 櫻井RI物理研究室, 客員研究員 (60333316)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 国際共同研究 / 元素合成 / 中性子過剰核 / ベータ崩壊 / アイソマー / 加速器 |
Research Abstract |
平成24年11月から12月にかけて、理化学研究所RIビームファクトリー(RIBF)施設において、ニッケル78およびスズ132近傍の原子核の研究を行った。これらの核種は、安定同位体と比較して中性子数が極端に多い放射性同位元素であり、ミリ秒単位の時間でベータ崩壊を起こす。自然界に存在する約270種の安定同位体のうち、鉄より重い元素の約半分は、非常に中性子密度が高い環境の下で、このような中性子過剰な原子核を介してごく短時間のうちに合成されたと考えられている(r過程)。ニッケル78やスズ132は、陽子・中性子ともに魔法数を持つ原子核であり、r過程により生成される元素のうち、特に存在量が多い質量数80および130付近の安定同位体の生成に重要な役割を果たすと考えられている。 本研究では、核子当たり345メガ電子ボルトに加速されたウラン238をベリリウム標的に照射し、核分裂/破砕反応により中性子過剰核を生成した。同位体分離装置を用いて目的の核種を分離・輸送し、最終焦点位置に配置した両面分割型シリコン半導体検出器に収束させた。シリコン検出器に埋め込まれた放射性核種と、崩壊に伴い放出されるベータ線の時間および位置の相関を取り、ベータ崩壊の半減期を測定した。また、ベータ崩壊に続いて放出されるガンマ線を周囲に配置したゲルマニウム検出器で測定し、崩壊経路を決定した。一方、マイクロ秒単位の寿命を持つ励起状態(アイソマー)を、ビームとの遅延同時計測により同定した。これら中性子過剰核の構造に関する情報は、r過程元素合成の天体シミュレーションを構築する上で重要な基礎となるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
交付申請書に記載した時点では、平成24年度中に質量数160-170近傍の中性子過剰希土類原子核のベータ崩壊核分光実験を実施する予定であったが、残念ながらビームタイムが割り当てられなかった。しかしながら、実験装置等はニッケル78およびスズ132領域の先行研究で用いた物がそのまま使用できるため、準備はほぼ完了している。また、ナノ秒単位の励起状態の寿命を測定するための高速時間応答検出器(臭化ランタンおよびプラスチックシンチレーション検出器)の開発もほぼ終了しており、平成25年4月に実験装置に組み込む予定である。平成25年の秋にはビームタイムが割り当てられる予定であり、先行研究で得られた結果と合わせて、r過程元素合成過程の包括的理解が進むと期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度に行ったニッケル78およびスズ132領域の実験データの解析を進め、結果を学術論文にまとめる。同時に、質量数160-170領域の中性子過剰希土類原子核の核分光実験に向けて、ナノ秒単位の寿命測定を実現すべく、高速時間応答検出器の開発を進める。具体的には、ガンマ線測定用の臭化ランタンシンチレーション検出器の整備およびサポート架台の設計・製作、ベータ線測定用の高速プラスチックシンチレーション検出器の開発を行う。本研究では、英国サリー大学との国際共同研究により計21台の臭化ランタン検出器を使用する予定である。平成25年秋に実験を行ない、質量数160-170近傍の中性子過剰希土類原子核の半減期・崩壊経路・変形度を測定し、この領域における核構造変化とr過程元素合成における希土類元素ピーク形成の関連を明らかにする。得られた実験データを元に信頼度の高い天体シミュレーションの構築に貢献し、r過程の舞台となった天体現象を世界に先駆けて示す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初の予定では、平成24年度中にベータ線測定用高速プラスチックシンチレーション検出器と臭化ランタン検出器のサポート架台を製作する予定だったが、これらを使用する実験(質量数160-170希土類原子核の核分光)が行われなかったため、開発が先延ばしになり、次年度使用額(2,158,183円)が生じた。 平成25年度は、ベータ線測定用高速プラスチックシンチレーション検出器(光電子増倍管およびライトガイドを含む)の開発に60万円程を使用する予定である。また、臭化ランタン検出器のサポート架台の製作に55万円程度を見積もっている。実験データ解析用のハードディスクおよびPC周辺機器の整備に10万円程度、残りの研究費(~80万円)を学会参加費・旅費に充てる予定である。
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