2012 Fiscal Year Research-status Report
表面吸着種により制御されたスピン偏極ゲルマニウム表面電子状態の研究
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24740197
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
矢治 光一郎 東京大学, 物性研究所, 助教 (50447447)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 半導体表面 / スピン軌道相互作用 / 表面超構造 / 角度分解光電子分光 / スピン分解光電子分光 |
Research Abstract |
半導体ベースのスピントロニクス技術の構築に向けて活発に研究が進められており,固体表面・界面におけるスピン軌道相互作用が重要な役割を果たすことが知られている。中でも,ラシュバ効果によるスピン軌道相互作用の利用が提案されており,半導体ヘテロ接合界面の二次元自由電子ガス等でよく研究されている。一方,固体表面の場合,ラシュバ効果によりスピン偏極した表面電子状態のスピン分裂エネルギー幅は,半導体ヘテロ接合界面に比べて桁違いに大きい。これは,固体表面において極めて高くスピン偏極した電子を作り出せる可能性があることを意味している。 本研究では,ビスマスや鉛といった重元素を半導体であるゲルマニウム表面に単原子層吸着した表面を作成し,角度分解光電子分光法とスピン分解光電子分光法を用いて,スピンに依存した電子構造を精密に調べている。そして,半導体表面における表面・界面電子バンドのエネルギー及びスピン構造が,表面吸着種や表面超構造に依存して改変・修飾される機構を明らかにすることを目的としている。 平成24年度は,ゲルマニウム単結晶基板をビスマス元素,鉛元素及び白金元素で終端した表面について、角度分解光電子分光及びスピン分解光電子分光を行った。ビスマス元素・鉛元素吸着系では,吸着元素とゲルマニウム基板の界面において,これまで知られていなかった,ゲルマニウムのスピン軌道相互作用に起因したスピン偏極界面電子状態が形成されていることを見出した。さらに第一原理電子状態計算も行い,これらの表面が持つ特異なスピン構造について理論的な側面からのアプローチも行った。また,白金元素を吸着した表面では,表面の一次元原子鎖内に閉じ込められた一次元金属電子状態を世界で初めて観測することに成功した。この成果は現在論文投稿中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は,当初は,ビスマス元素,及び鉛元素をゲルマニウム基板に単原子層吸着した表面について角度分解光電子分光とスピン分解光電子分光を行う予定としていた。実際に,これらの系について予定通り実験を行い,さらに理論計算までも行い,これらの表面のスピンに依存した特異な電子状態について深く理解することに成功した。これらの成果は現在論文執筆中である。 一方で,これらの研究を展開している中で,白金元素を吸着したゲルマニウム表面がさらなる重要な表面であることが明らかになり,申請者はいち早くこれに注目し研究に着手した。その結果,世界で初めて,半導体表面上の一次元白金原子鎖由来の一次元金属電子状態を観測した。この一次元原子鎖は極低温においても一次元金属性を保っており,これは今まで全く報告されていない新奇な現象であった。現在この成果は,世界的に権威のある物理学雑誌“Physical Review Letters”に投稿中である。 上記のように,平成24年度は当初の予定以上の研究を行い,世界的にも新奇な成果を挙げている。その理由の一つとして,日本の放射光施設と海外の放射光施設の両方を相補的に利用したところが大きい。海外の放射光施設利用においては,申請者がフランスの放射光施設ソレイユに実験課題申請を行い,ソレイユでの課題審査を経て,高い競争率の中ソレイユでのマシンタイムを獲得した。ソレイユで得られた高分解能の実験データは,国内の放射光施設では得ることができない程優れたものであった。日本の放射光施設では高エネルギー加速器研究機構フォトンファクトリーにおいてスピン分解光電子分光を行った。これらの実験結果を総合的に検討することにより,本研究を大幅に進展させることに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は,ビスマス元素,及び鉛元素をゲルマニウム基板に吸着した表面について明らかにされたスピンに依存した電子状態について論文2報を執筆する予定である。また,この成果については,6月に韓国済州島で開催される国際会議において招待講演を行うことになっている。 白金元素を吸着したゲルマニウム表面については,フランスの放射光施設ソレイユにおける高分解能角度分解光電子分光により,白金元素のスピン軌道相互作用に起因していると推測される表面一次元金属電子状態の巨大なスピン分裂が観測されている。本年度前半には,放射光施設フォトンファクトリーにおいて,この一次元電子バンドのスピン分解光電子分光を行い,そのスピン構造を実験的に明らかにする。そして,既に得られている角度分解光電子分光の結果と比較・検討し,表面一次元原子鎖の特異なスピン構造についての知見を得る。その後すぐに論文を執筆し投稿する予定である。また9月には,フランスで開催される国際会議において口頭発表を行う予定である。 本研究で明らかにされる半導体表面・界面におけるスピン偏極した表面金属状態に関する知見は、学術として重要な成果であることは疑う余地がなく,さらに今後の半導体ベースのスピントロにクス技術に指針を与える基礎学理としても有益である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は,白金元素を吸着したゲルマニウム表面の研究のために,新たに白金蒸着装置を製作する。蒸着源となる高純度白金材料,蒸着装置作成のための真空部品,ゲルマニウムウエハーを新たに購入する。 また,成果報告及び世界最先端の情報を収集するために,国際会議への参加を予定している。具体的には,6月に韓国済州島で開催される” Collaborative Conference on 3D & Materials Research”における招待講演,9月にフランス・パリで開催される”19th International Vacuum Congress”における口頭発表を行う予定である。また,日本国内で開催される”日本物理学会”にも参加をし,口頭発表を行う。これらのための旅費として予算を使用予定である。
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Research Products
(10 results)