2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24740198
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
古府 麻衣子 東京大学, 物性研究所, 助教 (70549568)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 国際研究者交流(フランス) / 国際研究者交流(米国) |
Research Abstract |
水素ハイドレートとは、水分子による水素結合ネットワークの中に水素分子が内包されている物質である。本研究の目的は、水素ハイドレート中の水素分子の拡散運動、とくに量子トンネリングに関連した現象を中性子散乱により調べることである。平成24年度は、ヘルパーガスとしてテトラヒドロフラン(THF)分子を用いた水素ハイドレートに着目して研究を行った。H2-THFハイドレートは、比較的低圧力下(10MPa程度)で安定に存在できることから、注目を集めている。このハイドレートには大ケージと小ケージがあり、大ケージにはTHFが、小ケージには水素分子が内包される。これらゲスト分子の運動を明らかにするため、中性子準弾性測定を行った。測定は、フランスのラウエ・ランジュバン研究所に設置されたIN5分光器を用いて行った。 まず、THF分子の運動を測定するために、水素分子の入っていないTHFハイドレートを測定した。その結果、40K-210Kの広い温度範囲で、ケージ中のTHFが局所的な運動をしていることがわかった。 次に、水素分子を内包したハイドレート(占有率0.27)の測定を行った。水素分子が小ケージに内包されていることは、中性子回折パターンの変化と非弾性散乱測定により観測されたラットリング振動から、確認した。水素分子の緩和挙動を調べるために、準弾性散乱測定を行った。その結果、水素分子は150K以上で運動していることがわかった。またそのスペクトルはローレンツ関数で解析でき、この緩和がDebye型であることを意味している。 緩和時間の温度依存性から、活性化エネルギーを見積ったところ、THFの運動は3.9kJ/oml、水素分子の運動は23kJ/molであった。この23kJ/molという値は、ケージ間を移動する活性化エネルギーの理論計算の値とほぼ対応する。今後は、より低温での測定を行い、量子的挙動について調べる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
24年度は、占有率が0.27の試料のみの測定を行った。当初の計画では、占有率の高い試料の測定も行う予定であったが、中性子散乱分光器のマシンタイムが十分でなかったため、断念した。この測定は、25年度に行う予定である。占有率の高い試料を作製するには、より高圧力に耐性があるガスラインが必要である。24年度の経験を活かし、より高性能のガスラインを作製するため、検討期間をとることにし、ガスラインの製作は25年度に見送った。 また、軽水素分子を内包する試料との比較のため、重水素分子の試料についても測定を行った。しかしながら、データの精度が十分ではなかったため、今回の測定からは明確な結果を得ることができなかった。 以上の理由から、研究目的の達成度は「やや遅れている」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
25年度は、24年度に得られた結果をもとに、さらに広い温度・時間領域で緩和挙動を調べる。低温での緩和挙動を調べるために、より高分解能の中性子散乱装置を用いて測定を行う。25年度6月に米国国立標準技術研究所(NIST)に設置されたHFBS分光器を用いて、測定を行う予定である。今回の実験では、占有率が0.27の試料だけではなく、占有率0.5の試料についても測定を行う。占有率の異なる試料を測定することにより、空孔の数によって拡散がどのように変化するかが明らかになる。この実験に向け、中性子用の高圧セルおよびガスラインの製作を現在進めている。 また、SF6をヘルパーガスとした水素ハイドレートの作製も行う予定である。SF6はTHFよりも中性子散乱断面積が小さいため、水素分子の運動を実験的に取り出し易い。まずは、実験室系のX線装置を用いて、in-situでSF6-H2ハイドレートの作製し、その構造を調べる予定である。その後、中性子準弾性散乱により、緩和挙動を調べ、THFハイドレートとの比較を行いたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
24年度に見送った「水素ガス圧力用ライン」の作製のために、180万円を計上する。中性子散乱実験用の試料容器(金属加工品)の作製のため、金属素材を消耗品として30万円計上する。また、試薬の購入のため、10万円を計上する。海外の中性子散乱施設での測定のため、外国旅費として30万円を計上する。また、成果発表のため、国内旅費として10万円を計上する。
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Research Products
(2 results)