2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24740201
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Nagoya Institute of Technology |
Principal Investigator |
小林 亮 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70560126)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 格子欠陥 / 機械材料・材料力学 |
Research Abstract |
本研究の目的である,転位拡散のメカニズムおよび拡散障壁エネルギーの高精度の評価,また不純物による転位拡散への影響を調べるため,準備段階として,本年度はいくつかのソフトウェアを開発した.大きく分けて以下の三つのソフトウェアの開発を行った.(1)転位周辺の歪み場を粗視化し,転位芯のみを原子スケールの手法で計算する原子ー粗視化粒子ハイブリッド法(hybrid MD-CGP).(2)転位芯を量子力学計算の精度で計算し,周辺は古典の原子間ポテンシャルにより計算することで,高効率で高精度なシミュレーションを可能にする量子ー古典ハイブリッド法(hybrid QM-CL).(3)上記二つの手法において拡散障壁エネルギーを計算するためのnudged elastic band (NEB)法. 上記ソフトウェア開発と並行して,応用シミュレーションも始めている.具体的には,(イ)純鉄中に溶けた水素による転位拡散の促進に関するシミュレーション,(ロ)タングステン中に照射されたヘリウムの転位拡散への影響のシミュレーション,(ハ)シリコン中に溶けた水素の転位拡散への影響を調べるシミュレーション,を始めている. 純鉄中の転位のほとんどは拡散障壁エネルギーの大きならせん転位であり,そのらせん転位の拡散が変形挙動を支配している.しかし,鉄は磁性を持ち,原子間の相互作用が複雑なため,古典原子間ポテンシャルによる計算では充分な精度のシミュレーションが難しい.そこで,上記のhybrid QM-CL法とNEB法を用い,転位芯に量子力学計算を適用することで,高精度にらせん転位の拡散障壁エネルギー,およびらせん転位と水素などの不純物元素との相互作用を計算することが可能となった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
純鉄のようなbcc結晶ではらせん転位の動きが材料の変形挙動を決定するが,鉄のように磁性を持つ元素の場合,転位芯構造の微かな変化で,転位拡散の障壁エネルギーが大きく変化するため,古典原子間ポテンシャルによるシミュレーションでは定性的にも正しいシミュレーションを行うことができなかった.古典原子間ポテンシャルでは精度の得られない系へも対応するため,転位芯にのみ量子力学計算を組み込むhybrid QM-CL法を開発した.また,拡散障壁エネルギーの評価のためにhybrid QM-CL法とNEB法を組み合わせるソフトウェアも開発した.これらは当初の計画にはなかったが,これらのソフトウェアにより,古典原子間ポテンシャルだけでは対応しきれなかった様々な系において,より高精度なシミュレーションが可能となった. すでに水素を含む純鉄中の転位拡散および,ヘリウムを含むタングステンにおける転位拡散,水素を含むシリコン中の転位拡散のシミュレーションに着手している.本年度開発したソフトウェアを用いることで,種々の材料中での転位の拡散挙動を統一的にシミュレーションすることができ,材料による違いや,不純物元素の違いによる転位拡散メカニズムの違いを明確にすることができると期待できる.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度開発したソフトウェア群を用いて,種々の材料における転位拡散の障壁エネルギー,および水素やヘリウムなどの不純物と転位の相互作用を解明していく.具体的には,純鉄中の水素,タングステン中のヘリウム,シリコン中の水素,シリコンーゲルマニウム中のアンチモンなどの不純物が転位拡散へどのような影響を与えるかを計算していく. これまでの計算で,水素が純鉄中のらせん転位の拡散を促進すること,ヘリウムは拡散を阻害する可能性があることを確認したが,その傾向が同じbcc構造であるタングステンにおいても成立するかを調べる.このようにいくつかの材質において水素,ヘリウムの影響を調べることで,それら不純物が転位拡散に与える影響の特徴を捉え,不純物と転位との相互作用の統一的な理解を目指す. 鉄やタングステンのようなbcc結晶においては拡散障壁エネルギーが低いため,一般に,キンクの拡散障壁エネルギーも低く,転位の一部が拡散障壁を越えて移動すると全体がただちに移動する傾向にあるため,現在行っているような転位が一挙に拡散障壁を越えるモデルで扱って問題ないと考えられる.しかし,シリコンのような拡散障壁エネルギーが大きな場合には,キンクの拡散障壁も無視できない程に大きいと考えられるために,転位の拡散メカニズムとして,ダブルキンクの生成とキンクの拡散を考慮しなければならない.そのためには,キンクーキンク間の相互作用を無視できる程度に大きなシステムの計算が必要となるため,キンク周辺に量子計算,その他の転位芯周辺では古典原子間ポテンシャル,さらに離れた弾性変形領域には粗視化粒子法を適用するhybrid QM-CL-CGP法を開発する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究のような材料計算科学におけるマルチスケール計算手法は,現在も新たな手法が提案される,発展著しい分野であり,最先端の研究動向を捉えるためにも,海外の国際会議や研究会における情報収集や研究者との議論が必要であるため,海外渡航費および会議参加費として30万程度を予定している. 大規模な計算を必要とするため外部のスーパーコンピュータの利用を必要とするので,利用料として20万程度を予定している. 研究会や研究打合わせのための旅費や謝金,データ整理のための謝金として10万を予定しており,論文投稿費用として10万程度を予定している.合計で70万となる予定である.
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Research Products
(7 results)