2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24740201
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Research Institution | Nagoya Institute of Technology |
Principal Investigator |
小林 亮 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70560126)
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Keywords | 格子欠陥 / 機械材料・材料力学 |
Research Abstract |
本研究の目的である,転位拡散のメカニズムおよび拡散障壁エネルギーの高精度の評価,また不純物による転位拡散への影響を調べるため,昨年度作成したソフトウェア(量子古典ハイブリッド法(hybrid QMCL)とnudged elastic band (NEB) 法)を用いて以下の3ケースの応用シミュレーションを行った. (1)純鉄中のらせん転位拡散への水素やヘリウムなどの不純物の影響を調べるため,水素(もしくはヘリウム)ありとなしの場合について拡散障壁エネルギーを比較した.ヘリウムが転位芯に存在している場合,ヘリウム原子の排除体積が大きいため,転位を固着する効果がある.一方,水素原子が転位芯近傍に存在する場合,それほど単純ではなく,水素の存在する位置に依存して,転位の動きを阻害も促進もし得ることを明かにした. (2)高圧・低温におけるシリコンの塑性を支配する完全転位の拡散障壁エネルギーに関して,これまでに明かにされていなかったらせん転位,60度転位,および30度転位の転位芯構造をhybrid QMCL法を用いて調べた.それらの芯構造はどれも,芯にダングリングボンド(DB)を作らないように再構成し,その歪んだ構造がバンドギャップ中に浅い順位として生じる可能性があることを明かにした.また,再構成前のDBの密度に依存し,転位芯が金属的になる可能性があることを見い出した. (3)核融合炉の炉壁材料に期待されているタングステンの内部でのヘリウムバブルの形成と転位の相互作用について古典分子動力学を用いて調べた.タングステン内部に存在するヘリウムは,転位の歪み場および転位芯にトラップされ,そこに次々とヘリウムが凝集してバブル形成を促し,そのバブルがさらなる転位を形成するというような,欠陥の自己複製的な機構を見い出した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度作成した,hybrid QMCLおよびNEBソフトウェアの開発は,順調に進んだが,シミュレーションに多くの時間を要した.一般に転位の周辺には広範囲に及ぶ歪み場が生じるため,それらを充分に考慮したシミュレーションを行う場合に非常に多数の原子を扱う必要があり,シミュレーションの計算コストが大きい.また,転位芯にのみQM計算を適用するとしても100から200原子のQM計算が必要であり,それ以上の効率化が望めないために,研究全体の進捗は思わしくない. (1)の純鉄中転位と水素の相互作用に関する研究では,転位芯近傍に水素原子が密に存在している極限における水素の影響を調べることできたが,逆の極限,つまり水素があまり存在していない場合の水素の影響に関しては研究が遅れている.その理由は,水素が疎に存在している状況をシミュレートするには,より大きな系つまりより多くの計算コストが必要となるためである.現在,計算コストを大幅に削減するために,QM計算を用いない解析を目指し,高精度の原子間ポテンシャルの作成を行っている.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度はQMCL法を用いたシミュレーションを行ってきたが,本テーマである転位キンク構造を計算するには,非常に多くの計算資源および時間を要する.そこで,より短時間で効率的に研究を進められるように,転位芯構造も高い精度で再現し,水素などの不純物の影響も考慮できる高精度な原子間ポテンシャルを開発する.近年,ニューラル・ネットワーク(NN)ポテンシャルと呼ばれる機械学習的な手法を援用した原子間ポテンシャルが注目されている.このNNポテンシャルは,パラメータの数をある程度自由に増減することができ,精度と計算コストをユーザが調整できる.このポテンシャルを改良および適用することで,転位芯の原子構造および水素の影響を高精度に再現するシミュレーションを短時間で効率的に行うことができると期待できる.現在,NNポテンシャルを作成するために,原子間ポテンシャルのパラメータを大量のQM計算データにフィッティングのためのコードを開発中である. 高精度に転位芯構造および不純物原子の影響を再現できるNNポテンシャルが完成した後に,初年度に開発した粗視化粒子(CG)法とのハイブリッド法を用いて,純鉄中転位キンクと水素,およびシリコン中転位キンクと水素の動的なシミュレーションを行い,それらの相互作用について解析していく.特に,シリコン中の完全転位に関しては,水素が存在しない場合についても,転位拡散メカニズムや応力依存性など不明な点が多い.さらに,水素が存在する場合には,シリコンが塑性的にも脆性的にもなり得るという報告もあるため詳細に調べていく.
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Research Products
(10 results)