2012 Fiscal Year Research-status Report
強誘電性半導体の分極電場に駆動された光キャリアダイナミクスと光起電力効果の解明
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24740202
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
山田 泰裕 京都大学, 化学研究所, 准教授 (50532636)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 強誘電体 |
Research Abstract |
本研究では、強誘電性と半導体性を併せ持つ「強誘電性半導体」の光電特性を解明することを目的としている。時空間分解レーザー分光を用いて強誘電性半導体の光キャリアダイナミクスを明らかにし、巨大光起電力効果などのユニークな物性発現のメカニズム解明と制御方法の確立を目指して研究を行った。本年度は、巨大光起電力効果が報告されているBiFeO3薄膜において、過渡吸収・光伝導ダイナミクスを組み合わせることにより、光キャリア再結合ダイナミクスの全貌を明らかにした。 ポンプ-プローブ法による過渡吸収測定によって、ピコ秒からマイクロ秒の時間領域では、過渡吸収ダイナミクスに4つの特徴的な緩和過程があることが分かった。1つは、励起直後に立ちあがりその後2~4 psの間に信号強度の変化が少なく、そこから1 psほどで鋭く緩和する矩形型ダイナミクスで、残りの3つはそれぞれ、100 ps、60 ns、0.38 msの寿命をもつ指数関数型の緩和である。これらの緩和成分はポンプ光の励起強度やエネルギーにほとんど依存しない。白色ポンプ・プローブ測定により吸収スペクトルの時間変化を観測したところ、矩形型成分の幅は、短波長ほど減少することが分かった。また、過渡吸収スペクトルは100ps程度で高エネルギー側にシフトしている。これは、キャリアの局在化と対応していると考えられ、100psの指数関数型緩和成分は、自由キャリアの局在化時間であると結論付けた。この結論は、極めて速い光伝導寿命とも整合している。これらの結果からBiFeO3薄膜における光キャリアダイナミクスと光誘起現象の関係について議論し、この成果を複数の学会にて報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
主な研究対象であるBiFeO3薄膜の光キャリアダイナミクスの全貌を解明した。特に、白色ポンプ-プローブ過渡吸収分光法と光伝導ダイナミクスを組み合わせることで、詳細な光キャリアの再結合・局在化ダイナミクスに関する理解が得られた。BiFeO3における極めて速いキャリア局在化は低い光電流密度とも整合している。また、光キャリアダイナミクスと自発分極の間に相関があることを示唆する結果も得られており、今後の研究への展開が期待される。これらの成果により、強誘電性半導体の光電特性解明に向けた道筋がつけられたと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに明らかにしたBiFeO3薄膜における光キャリア再結合ダイナミクスを踏まえ、巨大光起電力の起源である強誘電体中の自発分極と光キャリアダイナミクスの関係を明らかにする。このため、温度・圧力・電場などによって試料の強誘電性を制御し、光第二高調波(SHG)測定などによって強誘電性を評価した上で、過渡吸収分光・光伝導分光による光キャリアダイナミクスの測定を行う。また、強誘電体における光起電力効果などの普遍的な光誘起現象と光キャリアダイナミクスの関係を明らかにするため、BiFeO3薄膜以外の強誘電体試料においても測定を行う。 これらの結果を基に、強誘電性半導体の光電特性に関する学理を構築し、新しい光電変換過程を利用した光エネルギー変換技術の提案への道筋をつける。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当該年度においては、BiFeO3薄膜試料に注力することで光キャリア再結合ダイナミクスの全貌を明らかにすることができたが、一方で、BiFeO3薄膜以外の試料における研究は当初の予定ほどには進展しなかった。そこで、他の強誘電体試料における研究の一部を次年度に行うこととし、試料・基板購入に充てる費用の一部を次年度に繰り越すこととした。上述したように、次年度はBiFeO3薄膜以外の試料における強誘電性の評価・光キャリアダイナミクスの測定を行う予定であり次年度使用額はこの研究の遂行のために使用する予定である。
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