2012 Fiscal Year Research-status Report
トポロジカル絶縁体表面電子状態:ディラックコーンの異方性と準粒子散乱の研究
Project/Area Number |
24740204
|
Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
有田 将司 広島大学, 技術センター, 技術主任 (20379910)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | トポロジカル絶縁体 / ディラックコーン / 角度分解光電子分光 / 準粒子散乱 |
Research Abstract |
トポロジカル絶縁体の表面電子状態:ディラックコーンにおいて、Warpingと呼ばれる効果により六角形星状変形を起こすが、ディラックコーンのWarpingの強度が違うBi2Te3, Bi2Se3, PbBi2Te4, GeBi2Te4について、偏光とエネルギー依存の高分解能角度分解光電子分光実験を行い、ディラックコーンを構成する電子状態の実験的新しい知見を得ることを目的とした。 得られた成果は、広島大学放射光科学研究センターHiSOR BL-9Aにおいて、高分解能角度分解光電子分光測定をBi2Se3, GeBi2Te4について行い、ディラックコーンに属する準粒子散乱について議論できる測定データを得たことである。これにより、Bi2Se3については、結合エネルギー約15meVに折れ曲がり構造が見られた。バルクフォノンの状態密度と比較するとエネルギー位置が一致しており、表面電子状態ではあるが、バルクフォノンによる散乱が起こっていると考えられる。バルクバンドにエネルギー的運動量的に近い場合、ディラック表面電子であっても、フォノンによる散乱の影響を受けることが示唆される。一方、ディラック点に近づくと、スペクトル幅は細くなり、温度による幅広がりも抑えられる様子が観測され、バルクバンドから遠く、ディラック点に近い表面電子は、電子‐フォノン散乱や電子-電子散乱が抑制されていると考えられる。よって、スピンカイラル状態で等方的ディラックコーンを形成する理想的なトポロジカル絶縁体の理想的な表面状態は、散乱が抑制されるということが、実験的に明らかになったと考えている。また、GeBi2Te4では約17meVで折れ曲がりが観測され、同様にフォノン散乱によるものと考えられる。両者の電子フォノン散乱の結合定数は、差はなく、Warpingの強度による差は見られなかった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
偏光・エネルギー依存角度分解光電子分光測定を行う予定であったが、これには放射光源が不可欠である。しかしながら、光源装置、ビームラインなど装置不具合により光電子分光実験実施時間がほとんど確保できなかった。そこで実験室光源(Xeランプ)を整備し実験を試みた。実験装置が全国共同利用研究に充てられている装置のため、放射光源と実験室光源両方を用いた実験においても、2日程度しか測定できない状況であったが、高分解能光電子分光実験をBi2Se3, GaBi2Te4について実施でき、準粒子散乱の議論が行えるデータは得られた。偏光依存性等の測定に関しては、25年度に測定を行う予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
放射光光源HiSOR BL-9Aを用い、Bi2Se3, GeBi2Te4についてディラックコーンの直線偏光依存性の角度分解光電子分光測定をΓ‐K、Γ‐M方向について行い、構成する電子軌道と準粒子散乱、Warpingの強度の関係が議論が行える測定結果を得る予定である。”現在までの達成度”でも述べたように24年度は装置トラブルによる実験実施が困難である状況でもあった。そのようなトラブルにも対応できるよう、 実験室光源の整備も進め、放射光が使えない場合でも測定が行えるように測定環境の整備も併せて進める。 また、Bi2Te3, PbBi2Te4についても高分解能角度分解測定を行い、フェルミ順位近傍の折れ曲がり構造やスペクトル幅の変化をとらえ、準粒子散乱について議論を行う。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
24年度は、放射光源リングのトラブルと分光装置故障が重なり、放射光を励起光とした光電子分光実験がほどんど実施できなかった。また、使用をする装置は、全国共同利用研究に供されており、短縮された放射光利用期間を他の研究グループへの利用に優先させた。そのため、実験実施期間がかなり制限され、本研究に対する実験実施回数も少なかった。その中で、24年度に主として行った実験室光源(Xeランプ)での実験実施時期は、年度終盤になってしまい、所有している物品で実験を行った。このため消耗物品を購入、補填する期間がなくなってしまい、研究目的と合致した研究費使用を行うことができなかった。 25年度初めは、24年度終わりの実験により消耗したサンプルホルダー、接着剤等の必要消耗品の購入を行う予定である。また、24年度での実験室光源の使用により、集光レンズやセラミックチューブ等が消耗したが、その交換が必要となっている。その消耗品の購入を予定している。 25年度で角度分解光電子分光実験を実施するにあたり、測定試料を再育成する為の原料と消耗品であるサンプルホルダーや接着剤等も購入する。 24年度は放射光源のトラブルがあり、実験室光源の整備を行ない実験に使用したが、簡易的に組み立てた部分もあり、実験遂行に支障があった。25年度では、そのようなトラブルにも対応が可能なように、実験室光源の整備を進めるため、物品(ガスライン用チューブ、バルブ等)の購入を予定している。 これまでに得られた成果は2013年7月中国で行われるVUVX2013( 38th International conference on Vacuum Ultraviolet and X-ray Physics)で報告を行う予定である。また日本物理学会、日本放射光学会での報告を予定している。
|