2012 Fiscal Year Research-status Report
超高品質半導体薄膜中の光・励起子間長距離強結合がもたらす非線形光学応答の増強
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24740210
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Research Institution | Osaka Dental University |
Principal Investigator |
一宮 正義 大阪歯科大学, 歯学部, 講師 (00397621)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 光物性 / 励起子 |
Research Abstract |
分子線エピタキシー(MBE)法の改良による新奇成膜法を用いたCuCl薄膜の作製では、CuCl原料の品質改善や成長レートの調整に加え、この製法独自の技術である電子線照射においても加速電圧・照射時間を変えながら試行を繰り返すことによって更なる品質の向上に成功した。この改良した製法によって作製したCuCl薄膜においては、非線形光学過程である縮退四光波混合のみならず低密度励起による励起子発光のスペクトルにおいても複数のピークを持つ独特の形状を示すことを確認することができ、それらの光子エネルギーは光-励起子間長距離コヒーレント結合に起因する輻射シフトを含めた各励起子モードの固有エネルギーと一致することが明らかになった。 光カー効果による非線形スペクトルの測定システム構築も進め、高品質化したCuCl薄膜において測定を行った。その結果、縮退四光波混合スペクトルと同様だが光カー効果では初めての観測となる各励起子モードに対応した複数の鋭いピークが出現することを確認し、励起子モード毎のカー回転角、非線形屈折率等を測定できるようになった。さらに、ポンプ光に対するプローブ光の時間遅延を変化させることによってカーゲート動作の時間応答測定も行ったところ励起子モード毎に異なる緩和特性を示し、光波との整合性が高いモードにおいては数100 fs級の超高速応答を観測することに成功した。 CuCl以外の物質に対しても準備を進め、環境に優しく、室温でも励起子が安定に存在できることから近紫外デバイスの素材として開発が進められているZnOの高品質薄膜においても縮退四光波混合の測定に成功した。また、顕著な励起子ポラリトン効果を示す有機物芳香族分子であるアントラセンの薄膜結晶においても縮退四光波混合の測定を行うべく、専用の冷却装置等の準備を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究ではMBE法をベースとしたCuCl成膜技術の向上と光カー効果による光学非線形性の評価を主な目標としているが、双方において明確な進展が見られた。成膜に関しては試料原料、MBE成長の各種条件、そして独自技術である電子線照射における加速電圧・照射時間の調整によって光学的品質が向上することを確認したが、いずれの条件調整においてもまだ改善の余地があり、極限まで品質を高める製法の確立や膜厚制御精度の向上が今後の課題となっている。光学測定面では、従来使用してきた縮退四光波混合測定用の光学系に手を加えることによって、光カー効果による非線形スペクトルの測定も可能なシステムを構築した。実際に膜厚の異なる複数のCuCl薄膜に対して特異なスペクトル構造や超高速応答を観測しているが、このシステムと高品質薄膜を用いた測定では十分に強い信号を得ることができ、光カー効果による偏光回転角や位相変化を各閉じ込め励起子に対して算出できる段階まで到達している。また、励起密度依存測定を行うことによって非線形屈折率の値まで得られる体制が既に整っていることから、試料毎に光学非線形性を評価して定量的な比較を進めていくことができる状況になっている。
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Strategy for Future Research Activity |
MBE法を用いた独自成膜技術に関しては、照射電子の加速電圧、電流密度、照射時間を変えながら作製を繰り返し、反射等の線形スペクトルや原子間顕微鏡像をチェックすることによってCuCl薄膜の光学的品質や表面モフォロジーが最も高くなる照射条件を絞り込んでいく。 光学測定に関しては、立ち上げてきた光カー効果測定システムを用いた光学非線形性の評価を進めていく。これまでの成果により、高品質薄膜においては光-励起子間長距離コヒーレント結合に起因する輻射シフト・輻射幅変化が得られ、それらは非単調な膜厚依存性を示すことが明らかになったが、閉じ込め励起子モード毎に輻射シフト・輻射幅が最大を示す膜厚やその大きさを系統的に示すことによって初めてこの新奇物理現象の真価を正確に理解できることになる。そこで、線幅が狭いために波長選択性に優れたピコ秒パルスレーザーを光源に用い、その中心波長を各励起子モードの共鳴波長に設定して励起を行うことによって光学非線形性のモード・膜厚による変化を測定していく。ただ、高い応答効率が期待される励起子モードほど輻射幅も大きいため、狭線幅レーザーでは励起効率が低いうえに他モードとのエネルギー的な重複によって正確な測定は困難であると予想される。そこで温度上昇に伴う位相緩和レートの増大によって輻射幅の小さいモードから順に消滅していくことを明らかにした成果も活用し、輻射幅が最も大きい励起子モードのみが観測可能となる室温近辺の温度領域において同等のバンド幅を持つ数10 fsパルスを励起光源に用いた測定を行う。結果は従来のMBE法によって作製したナノ薄膜やバルク結晶の場合と比較し、CuCl薄膜の高品質化によって非線形信号強度が何倍まで高まるかを定量的に示していく。 本計画の遂行によって得られた成果は速やかに取りまとめ、国際会議、論文、国内学会等による発表を積極的に行っていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
試料作製のための原料及び基板、線形・非線形光学測定のための光学部品、試料作製時の真空度向上及び低温実験のための寒剤等による物品費に95万円、研究調査・成果発表等による国内外旅費に50万円、学会登録費・出版費等に10万円の計155万円を直接経費として計上することを予定している。
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Research Products
(14 results)