2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24740217
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
新見 康洋 東京大学, 物性研究所, 助教 (00574617)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | スピントロニクス / スピン流 / スピンホール効果 / 超伝導 / 強磁性体 / メソスコピック系 / 弱反局在効果 |
Research Abstract |
スピントロニクスでは、電荷とスピンの2つの自由度をもつ『スピン流』が電気信号制御において重要な役割を果たす。その中でも電荷の流れを伴わないスピン角運動量のみの流れ、『純スピン流』に関しては、低消費エネルギー素子への応用も期待されるため、その生成・検出・制御方法が近年集中的に研究されている。本研究では超伝導を用いた『スピン流の増幅』というこれまでにあまり研究されてこなかった新しいスピン流機能の実現を目指す。今年度は、スピン流と電流の変換効率の指標となるスピンホール角をこれまでに報告されている白金や銅-イリジウム合金の2~3%よりも大きくさせることを目標に、まずスピン軌道相互作用が大きいビスマスを銅に添加してスピンホール効果の測定を行った。その結果、わずかビスマスを0.5%添加するだけで、スピンホール角が-24%まで増強されることが分かった(Y. Niimi et al., Phys. Rev. Lett. 109, 156602 (2012).)。また、スピンホール効果を見積る際に、系のスピン拡散長を正しく算出必要があるが、これに関しては、これまでの強磁性体を使用する方法とは全く異なる、弱反局在効果を用いる手法を確立し、実際に弱反局在効果を用いて得られたスピン拡散長の値と、従来通り強磁性体を用いて得られた値が、定量的に一致することを示した(Y. Niimi et al., Phys. Rev. Lett. 110, 016805 (2013).)。さらに、上記の銅-ビスマス合金のスピンホール素子に酸化アルミニウム絶縁層を挟んで超伝導ニオブにバイアス電圧を印加して、スピンホール効果をさらに増大させることができるか試みたが、バイアス電圧依存性は観測されなかった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
スピン流と電流の変換効率の指標となるスピンホール角は、スピン軌道相互作用が大きいとされる白金を用いても、これまで高々数パーセント程度にとどまっていたために、この値をいかに増大させるか、また高価な白金を用いることなく、安価な物質でそれを実現できるかが、将来の低消費エネルギー素子の開発にとって重要な点となる。本研究では、不純物効果に起因する外因性スピンホール効果に着目し、母体と不純物の組み合わせを変えることで、白金よりも1桁大きいスピンホール角を得ることができた。一方で、当初の計画ではこのスピンホール角の増大を超伝導体を用いて実現する予定であったが、実際にはそのような効果は観測できなかった。1つの要因として、絶縁層を介して超伝導体にバイアス電圧を印加してスピンホール角を増大させる場合、スピンホール効果を起こす物質のスピン拡散長が十分長いことが理論で要請されており、現在使用している銅-ビスマス合金のスピン拡散長は高々数十ナノメートルであるため、理論の要請を十分満たしておらず、スピンホール角の増幅が観測できなかった可能性がある。しかしながら、スピンホール角の1桁以上の増幅には成功したため、達成度として(2)を選択した。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度は、本研究のもう一つの課題である、超伝導体を用いたスピンホール効果の観測を目指す。これまでスピンホール効果は、磁気光学効果や強磁性体を用いた電気的測定(強磁性共鳴を利用するスピンポンピング法も含む)によって観測されてきたが、本研究ではスピンホール効果によって蓄積したスピンを、試料直上に作成する超伝導量子干渉計(SQUID)を用いて観測する。通常のdc-SQUIDでは電流電圧特性を測定したときに、必ず熱の効果によるヒステリシスが生じるため、電流と電圧の関係が1対1対応しない。そこでSQUIDの下に発熱を防ぐ短絡層を敷けば、ヒステリシスを生じない『shunted SQUID』を作成することができる。この場合、電流と電圧は1対1に対応するため、ある電流で固定したときにSQUIDを貫く磁束の変化がそのまま電圧に変換されて読み取ることが可能となる。このような強磁性体を使用しない新たなスピン流検出方法を確立する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし。
|