2012 Fiscal Year Research-status Report
強磁性量子相転移物質における圧力、磁場制御による量子臨界現象の研究
Project/Area Number |
24740220
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松林 和幸 東京大学, 物性研究所, 助教 (10451890)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 量子相転移 / 圧力 / 磁場 / 重い電子系 / 強磁性 |
Research Abstract |
本研究では、圧力や磁場によって磁気秩序相が生成、消失する量子相転移点近傍における異常物性の起源を明らかにすべく、臨界点近傍における価数の変化やメタ磁性の発現に着目した研究を行った。圧力誘起強磁性を示すYbNi3Ga9において、常圧から約20GPaまでの幅広い温度,圧力範囲においてX線吸収実験を行い、バルク測定から得られた温度-圧力相図上に価数変化をマッピングすることに成功した。その結果、約2.8価の価数クロスオーバー領域が圧力誘起強磁性秩序が発現する臨界圧力へとマージしていくことがわかった。このことは、1次相転移的な強磁性磁気秩序の発現と価数との相関を示唆している。また、本研究のもう一つの対象物質であるEuT2As2(T=Co,Ni)に対しては、8 GPaまでの高圧下電気抵抗測定を行った。その結果、EuNi2As2では反強磁性秩序に起因する電気抵抗の異常が加圧とともに増大することがわかった。また、EuCo2Zn20では約3GPa付近でEuイオンの反強磁性秩序が消失する代わりにCoイオンの磁気秩序の出現を示唆する異常が観測された。今後はEuイオンの磁気秩序と価数状態との相関についてさらに研究を進めていく。 研究計画で予定していた上記の物質に加えて、低温で四極子秩序を示すPrTi2Al20に対して高圧下物性測定を行った。その結果、四極子秩序が急激に低温へと抑制される圧力領域において比較的高い転移温度と上部臨界磁場を有する重い電子系超伝導を発見した。これらの成果は、重い電子系における磁気、価数、軌道の自由度に起因した量子相転移を総合的に理解する上で重要な手がかりになると期待される。上記の成果は日本物理学会や国際会議において発表を行い、一部の結果は論文として公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では圧力誘起強磁性秩序を示す重い電子系物質において、磁気秩序が発現する臨界圧力近傍における価数変化を調べることやメタ磁性発現との関係を調べることで、非従来型の量子臨界現象の解明を目指している。そのための実験的なアプローチの一つとして価数の圧力変化を幅広い温度、圧力領域において測定し、マッピングすることにYbNi3Ga9において成功した。なお、この成果は韓国で開催された国際会議においてベストポスター賞を受賞した。本研究で対象としたYbおよびEu系化合物の量子相転移の臨界圧力は約10GPa程度であるが、この超高圧領域での物性測定が可能となる圧力装置の開発も順調に進展しており、今後により精密な実験を行うための基盤が整いつつある。また、当初予定していた物質以外の重い電子系物質PrTi2Al20における高圧下物性測定を行ったところ、四極子秩序の量子相転移を示唆する臨界点近傍において重い電子系超伝導を発見した。この成果に対して、重い電子系学術奨励賞を授賞した。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の研究においてはYbNi3Ga9の価数変化の温度-圧力マッピングに成功し、1次相転移的な強磁性発現との相関に関して重要な手がかりが得られてる。さらに最近、YbNi3Ga9の強磁性臨界点近傍においてメタ磁性を示すことを見いだした。今後は、メタ磁性の起源として価数の量子臨界性が関係している可能性を実験的に検証し、価数の量子相転移の理論的モデルとの比較を行いたい。そこで、高圧下かつ磁場中においてより低温域までの測定が可能となるように、最近開発に成功した大容量対向アンビル型圧力セルを用いて実験を行う。現在の最高発生圧力は約9GPa程度であるが、アンビルやガスケットの材質や設計を改良することで10GPaを超える圧力が発生できることが期待され、YbNi3Ga9の臨界圧力を十分に超えた領域までの実験が可能となる。さらに、メタ磁性転移における電子状態の変化の理解を深めるために、高圧下における熱電能測定にも取り組みたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
大容量対向アンビル型圧力セルの最高発生圧力の向上を行うための工夫として、最近、新たに開発された高硬度、非磁性のタングステンカーバイド(フジロイ社製TMS05)を用いたアンビルを作製する。熱電能測定の開発や電気抵抗や交流磁化率測定の感度を改良するためにプリアンプ付きの高感度電圧計を購入する。また、上記の実験に必要な消耗品(ヒーターや抵抗温度計)の費用も計上する。高圧下における価数を実験的に決定するために、初年度に引き続いてSPring-8でのX線吸収実験も行う。その出張実験のためのビームタイム料、寒剤費および旅費を計上する。
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