2013 Fiscal Year Research-status Report
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24740221
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
宇田川 将文 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (80431790)
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Keywords | パイロクロア化合物 / 磁気多極子 / 幾何学的フラストレーション / ドメイン壁 |
Research Abstract |
本年度はCd2Os2O7やLn2Ir2O7 (Ln=希土類元素)など、パイロクロア格子化合物で近年、広く存在が確認されているAll-in/All-out型磁気秩序相の物性について、特にドメイン壁の役割に注目して現象論的解析を行なった。まず、パイロクロア格子上でイジング型の交換相互作用を加えたハバード模型を採用し、非制限ハートリーフォック法によってAll-in/All-out型の秩序変数にドメイン壁を含む空間構造を持つ準安定解を求めた。この準安定解の性質を詳しく調べたところ、秩序相内に二つの温度スケールが存在し、系の磁気的、伝導的性質はクロスオーバーを示す事を見出した。まず、All-in/All-out型磁気秩序相は2次転移を経て生じるため、磁気秩序に伴う励起ギャップは転移温度から温度を下げるとともに、ゼロから連続的に立ち上がる。従って、まず励起ギャップと転移温度の大小関係が入れ替わるクロスオーバー温度が定義できる。この温度よりも高温側ではドメイン壁は、二次転移点近傍特有の長い相関長を反映した幅の広い構造を取るのに対し、低温側では数格子間隔程度の幅を持つ「イジング型」の構造を取るようになる。また、このクロスオーバーは系の伝導特性にも影響し、高温側ではバルク伝導が主体的であるのに対し、低温側ではドメインに局在した低エネルギー励起が系の伝導を担うようになる。また、二つ目の温度スケールとして、ドメイン壁の磁気構造が変化する特徴的な温度の存在を見出した。[111]面に垂直なドメイン壁では格子の空間的な対称性から、局所的に有効場の消失するサイトが現れる。高温領域ではこのサイトで磁気モーメントが消失する一方、特性温度以下では局所モーメントが現れる事を見出した。これらの温度スケールは現実の系に見られる種々の実験事実の理解に深く関係すると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は研究計画を一部変更し、近年、進展の著しいAll-in/All-out型磁気秩序相の物性についての解析を行なった。All-in/All-out型磁気秩序はCd2Os2O7やLn2Ir2O7 (Ln=希土類元素)など、パイロクロア格子化合物で近年、広く存在が確認されている新規磁気秩序であり、精力的な実験研究が進められている。All-in/All-out型磁気秩序相の物性を理解する事は急速に進展する実験結果に理論的な解釈を与えるという点で喫緊の課題である。また、All-in/All-out型磁気秩序は対称性の観点から磁気八極子と理解する事ができ、幾何学的フラストレーション系で広く期待される多極子秩序、複合自由度形成の物理を理解する糸口を与える。本年度、研究代表者はAll-in/All-out型磁気秩序相が示すべき基本的な性質を数多く見出した。特にドメインの役割に注目し、ドメイン構造のクロスオーバーと、それに伴う伝導特性の定性的変化を見出した事は、パイロクロア化合物の実験結果に新しい解釈を与える事になり、大きな理論的進展を挙げたと考えられる。また、[111]面に垂直なドメイン壁における、転移温度以下での局所磁気モーメント生成を見出した事は、Cd2Os2O7において長年問題とされて来た\muSRシグナルの150Kにおける不連続な立ち上がりに新しい光を当てる可能性がある。これらの一群の成果は研究計画作成時には予想しなかった大きな進展であり、数多くの実験結果に新しい解釈を与える重要な成果である。これらの理由から、本年度の研究は当初の計画以上に進展していると判断するのが適当と考える。
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Strategy for Future Research Activity |
3年度目については、今年度に大きな進展をあげたAll-in/All-out型磁気秩序相の物性研究に引き続き従事する。All-in/All-out型磁気秩序相については計画作成時には研究対象として考慮していなかった。しかしながら、近年の実験研究の急速な進展と、本年度に研究代表者があげた数多くの成果を考慮すると、時宜を得た研究課題だと考えられる。3年度目は特に、All-in/All-out型磁気秩序相のドメイン生成の外場制御、そのトポロジカルな性質に焦点を当てて研究を進めて行きたいと考える。All-in/All-out型磁気秩序相については国内を中心に盛んな実験研究が展開されている。実験研究者との緊密な連絡を取りつつ、引き続き研究課題を遂行したい。 また、All-in/All-out型磁気秩序相の研究と平衡して、本来の研究テーマであるコンプリートグラフ上のハバードモデルの解析を行なう。主に2次元のapical checkerboard格子、及び3次元のapical pyrochlore格子を対象として考察を進める。特に、運動量0近傍で異常な指数をもって振る舞うスピン構造因子を中心に解析を進め、電荷、シングレット構造因子などを含めた多角的な解析を行なう。また、格子の持つ正方形、六角形のループに有限のfluxを通したモデルについても厳密解が得られる事を見出した。この厳密解は$\pi$-flux型の分散を持つモデルに相互作用を加えた状況に対応し、その物理的性質は非常に興味深いと考える。
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Research Products
(15 results)