2012 Fiscal Year Research-status Report
フェルダジルラジカルを用いた新奇量子スピン系の構築
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24740241
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
山口 博則 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (70581023)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 有機ラジカル / フェルダジルラジカル / スピンラダー |
Research Abstract |
フェルダジルラジカルを有する2種類の新規有機ラジカル磁性体3-Cl-4-F-V、3-Br-4-F-Vの合成及び単結晶育成に成功した。 3-Cl-4-F-Vは分子配列によるラジカル接近を考慮したところ、2本足梯子鎖を形成していると考えられた。分子軌道計算の結果からも同様に2本足梯子鎖の形成が示唆された。磁化率χの測定結果を用いてχTの温度変化を見ると、従来の有機ラジカル磁性体では非常に珍しい強磁性的な相互作用が働いていることが確認できた。量子モンテカルロ法による、磁化率、磁化曲線、磁気比熱の解析から、足方向の強磁性相互作用と桁方向の反強磁性相互作用を見積もることができた。さらに、低温での温度磁場相図を詳細に調べた結果、逐次相転移が観測された。2種類の秩序パラメータの存在を示唆しており、ノンコリニアな磁気秩序状態を取っていると考えられた。梯子鎖間の磁気相互作用を考えた結果、フラストレーションが生じている可能性が考えられ、低次元性とフラストレーションに起因した特異な磁気状態であると考えられる。 3-Br-4-F-Vにおいても、分子軌道計算及び量子モンテカルロ法による磁気特性の解析から、同様な梯子格子の形成が明らかになった。さらに、ゼロ磁場ギャップを有しており、70mKまで長距離秩序状態への相転移は観測されていない。磁場印加によるギャップレス相において、朝永・ラッティンジャー液体状態の出現を観測することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
3-Cl-4-F-Vにおいては、分子軌道計算および量子モンテカルロ法による解析によって、梯子の足方向に強磁性相互作用を有するレッグフェロラダーであることを定量的に示すことができた。さらに、温度磁場相図を詳細に調べた結果、非自明な磁気相の出現を観測した。梯子鎖間の相互作用を考えた場合にフラストレーションが生じていると考えられた。よって、それに起因したノンコリニアな秩序状態が基底状態となっており、スピンの成分が部分的に秩序して逐次相転移として現れていると考えられる。梯子鎖の低次元性とフラストレーションに起因する特異な量子状態であると考えられる。 本研究期間中に新たに合成に成功した3-Br-4-F-Vにおいては、3-Cl-4-F-Vと同様なレッグフェロラダーであることを、分子軌道計算および量子モンテカルロ法による解析で明らかにした。一方で、3-Cl-4-F-Vに比べて梯子の桁方向の反強磁性相互作用の値が大きく、5T程度の比較的大きなゼロ磁場ギャップを有するため、ゼロ磁場では約70mKまで長距離秩序相への相転移が観測されていない。温度磁場相図を詳細に調べた結果、磁場印加によるギャップレス相で、長距離秩序相の直上の温度領域に朝永・ラッティンジャー液体(TLL)相が現れることを明らかにした。強磁性鎖をベースとした量子スピン系においては、TLL相の出現を観測した初めての例である。古典的な秩序状態が安定となる強磁性鎖の影響でTLL状態は安定し難いと考えられてきたが、有限の異方性や鎖間の相互作用の影響を強く受ける現実の物質においてTLL相を観測したことは、量子スピン系の新しいモデルとして非常に価値のある成果であると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
3-Cl-4-F-Vにおいては、低次元性とフラストレーションに起因する特異な磁気相のスピンダイナミクスを詳細に調べるために、NMRによる緩和時間の温度及び磁場依存性測定を行う。また、重水素化した試料の合成を試み、中性子散乱測定を行う。低エネルギー分散の知見を得ることで、量子効果の定量的な知見を得ることを目的とする。 3-Br-4-F-Vは、磁場誘起朝永・ラッティンジャー液体状態(TLL)におけるスピノンの分散を調べ、強磁性鎖をベースとするTLL相において、TLL相の特徴である線形分散が現れていることを明確に示したいと考える。 上記物性測定と平行して、フェルダジルラジカルを用いた新規物質の合成を行う。これまでに得られた新規物質における化学修飾と磁気格子形成の知見を基に、新規量子スピン系の構築を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費は主に合成試薬に使用する。試料の重水素化には、合成の全行程において重水素化された試薬を使用する必要があり、多額の研究費を必要とする。また、新規物質の合成においては、出発原料としてアルデヒドを購入する。 その他、3-Cl-4-F-V及び3-Br-4-F-Vの研究成果の発表に伴う旅費、論文投稿における掲載費として使用する予定である。
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[Journal Article] Unconventional Magnetic and Thermodynamic Properties of S=1/2 Spin Ladder with Ferromagnetic Legs2013
Author(s)
H. Yamaguchi, K. Iwase, T. Ono, T. Shimokawa, H. Nakano, Y. Shimura, N. Kase, S. Kittaka, T. Sakakibara, T. Kawakami, and Yuko Hosokoshi
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Journal Title
Physical Review Letters
Volume: 110
Pages: 157205-1-5
DOI
Peer Reviewed
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