2012 Fiscal Year Research-status Report
強相関電子系の秩序相における新奇な非平衡現象の理論
Project/Area Number |
24740244
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
|
Research Institution | Institute for Molecular Science |
Principal Investigator |
田中 康寛 分子科学研究所, 理論・計算分子科学研究領域, 助教 (50541801)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 有機導体 / 非平衡状態 / 電荷秩序 |
Research Abstract |
有機導体β-(meso-DMBEDT-TTF)2PF6について、まずこの系における特徴的な絶縁相であるチェッカーボード型電荷秩序の起源を調べるため、当該物質に対する現実的な電子格子相互作用(分子配列の歪みと分子変形の効果)を考慮した拡張ハバードモデルを構築した。そのモデルを平均場近似を用いて解析し、基底状態において様々な電荷秩序パターンの安定性について調べた。その結果、格子の歪みを導入することによってはじめて実験で観測されるチェッカーボード型電荷秩序が安定化されることが分かった。さらにその結果を踏まえ、非平衡グリーン関数の方法を用いて電流電圧特性と、電圧下での電荷分布を計算した。その結果、電圧をかけることによって電荷秩序の絶縁体状態から、伝導状態に変化することが分かった。この物質では、伝導状態において熱平衡状態とは異なる非平衡準安定状態の存在が示唆されているため、どのような伝導状態が生じるかをパラメータを変化させて詳細に調べた。その結果、あるパラメータでは伝導状態は電荷秩序のない、熱平衡のものと本質的に同じ状態になるのに対し、別のパラメータでは電荷秩序が弱められながらも残った、熱平衡とは異なる状態になることを見出した。この結果が実験結果とどのように関連するかは今後の課題として残っているが、電子と格子が結合した系において非平衡特有の新奇な状態が現れる可能性を示したという点で意義のある成果であると考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の大きな目的であった有機導体β-(meso-DMBEDT-TTF)2PF6における電荷秩序パターンの再現と非線形伝導の解明を、おおむね達成できたと考えている。特に、実験で観測されているような非平衡特有の準安定状態の存在が、理論的にも示唆されたことは大きな進展であった。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度の成果を受けて、今後はその成果を別の計算手法により相補的に確認するべく研究を進めるとともに、今年度の研究では考慮していなかった非平衡系での揺らぎの効果の解明に焦点を当てていく方針である。具体的には、前者については非平衡グリーン関数法と相補的な手法である時間依存シュレディンガー方程式を用いた方法に取り組む。また後者については、これまでの方法に摂動論的に揺らぎの効果を取り入れる計算を行うとともに、平衡系でよく用いられる変分モンテカルロ法を非平衡系に応用できないか検討し、新しい計算手法の開発を目指した研究を行いたい。これらの研究により、これまでの研究の信頼性の向上や、新たな物質での非平衡現象の解明などに道が開かれると考えている。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
まず、国内外で研究成果を発表するためにノートパソコンを購入する。さらに必要に応じて計算専用のワークステーションを購入する。また、研究成果を学会、研究会で発表するための旅費として使用するほか、必要な書籍やソフトウェアの購入も行う。
|