2012 Fiscal Year Research-status Report
スピン軌道相互作用誘起モット絶縁体の物性解明と超伝導化
Project/Area Number |
24740245
|
Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
岡部 博孝 独立行政法人物質・材料研究機構, その他部局等, 研究員 (20406838)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | スピン軌道相互作用 / モット絶縁体 / Ba2IrO4 / K2NiF4 / イリジウム酸化物 / 超伝導 |
Research Abstract |
本研究はスピン軌道相互作用誘起モット絶縁体、Ba2IrO4の物性解明と超伝導化を目的としている。Ba2IrO4は銅酸化物超伝導体の母物質、La2CuO4と同構造の層状イリジウム酸化物であり、銅酸化物に類似した電子状態が実現していると予想される。本年度はBa2IrO4単結晶の合成と精密物性測定、およびキャリアドーピングによる超伝導化を試みた。 単結晶合成については、高圧下における最適な合成条件を見出すことにより、最大500ミクロン程度の大きさの結晶を得ることができた。この結晶を使用して、共鳴X線散乱、ラマン散乱実験を行なった。これよりBa2IrO4の反強磁性状態において、磁気モーメントがIrO2面内で反平行([110]方向)に整列していること、面内における交換相互作用の大きさは銅酸化物の半分程度(600~700 K)であることが判明した。 キャリアドーピングについては、2価のバリウム(Ba2+)の一部を、1価のカリウム(K+、ホールドーピングに対応)、または、3価のランタン(La3+、電子ドーピングに対応)に置換することに成功した。ゼーベック係数測定より、K置換体がp型、La置換体がn型になることが判明した。これより、Ba2IrO4はホールと電子、両キャリアともドーピング可能な系であると判断された。 超伝導に関しては、未だ発見できていないが、各種置換体の物性測定を通して、Ba2IrO4が特異な電子―ホール対称性(銅酸化物超伝導体と比べて、対称的な電子―ホール非対称性)を示すことが判明するなど、興味深い結果を得た。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度の研究目標は、(1)Ba2IrO4高品質単結晶の作成と精密物性測定、および、(2)キャリアドーピングによる超伝導化、の2つである。 (1)については、高圧合成法を駆使することにより、目的とした高品質単結晶の合成に成功した。また当初の計画通りに、共同研究(共鳴X線散乱、中性子散乱、ラマン散乱実験)を行った。これにより、Ba2IrO4の磁気構造([110]方向を向いた反強磁性)が判明した。Sr2IrO4との比較から、層状イリジウム酸化物におけるスピン軌道相互作用誘起モット絶縁体状態は、Ir-O-Ir結合角の大幅な変化に対してロバストであることが分かった。また、IrO2面内の反強磁性交換相互作用の大きさは銅酸化物の半分程度(600~700 K)であることが判明した。 (2)については、キャリアドーピングについては、2価のバリウム(Ba2+)の一部を、1価のカリウム(K+、ホールドーピングに対応)、または、3価のランタン(La3+、電子ドーピングに対応)に置換することに成功した。ゼーベック係数測定より、K置換体がp型、La置換体がn型であることが判明した。これより、Ba2IrO4はホールと電子、両キャリアともドーピング可能な系であると判断された。 Ba2IrO4の超伝導化は実現できていないが、各種置換体の物性測定を通して、本物質が特異な電子―ホール対称性(銅酸化物超伝導体と比べて、対称的な電子―ホール非対称性)を示すことが判明するなど、興味深い結果を得た。 以上の成果より、本年度の研究計画は、ほぼ達成したものと判断される。
|
Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画通り、(1)Ba2IrO4置換体の精密物性測定、および(2)多重極限環境下における超伝導の可能性、を推進する予定である。 (1)については、すでにBa2IrO4置換体のμSR測定が完了しており、データ解析および関連物質(Sr2IrO4など)との比較検討の段階にある。また、置換体の良質な単結晶合成が完了しだい、ラマン散乱、共鳴X線散乱を行う予定である。 (2)多重極限環境下(超高圧、極低温)の測定については、現在、置換体多結晶試料を用いた予備的実験を完了している。こちらについても、単結晶が得られしだい、本測定を行う予定である。 上記に加えて、新しい共同研究として、角度分解光電子分光(ローザンヌ工科大学)および中性子散乱(ヴァージニア大学)を開始した。また、走査型トンネル分光(STS)に関しても、広島大学グループと共同研究を発足する予定である。STS測定は、反強磁性転移温度より高温から生じると予測される擬ギャップ的振舞いを観察することが目的である。 さらに、イリジウム以外の4d、5d遷移金属への置換、物質探索も推進しており、興味深い化合物が合成された際には、集中的な物性測定を行う予定である。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当該助成金が生じた状況:3月末の物理学会出張に関する旅費精算処理時のミス 翌年度分として請求した助成金と合わせた使用計画:実験用具、もしくは試薬代として使用する。
|
Research Products
(9 results)