2013 Fiscal Year Research-status Report
量子スピン液体の異方的励起構造と量子臨界現象の解明
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24740252
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
山下 智史 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (40587466)
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Keywords | 量子スピン液体 / 分子性固体 / 熱測定 / 強相関 |
Research Abstract |
X[Pd(dmit)2]2系における量子スピン液体-隣接相境界における量子臨界挙動の検証のために、重水素化XY[Pd(dmit)2]2混晶塩試料の低温熱容量測定とX[Pd(dmit)2]2塩の高温領域の熱容量測定を行った。また、電荷秩序-量子スピン液体,反強磁性-電荷秩序の混晶塩の熱容量を系統的に測定した。 EtMe3SbMe4Sb[Pd(dmit)2]2混晶塩における量子臨界現象は、Me基の水素に由来する大きな熱容量により磁気熱容量の詳細が捉えにくい。本年度は、低温のMe基由来の熱容量が抑制された重水素化混晶塩の熱容量を極低温まで測定した。この結果、混晶塩において観測された熱容量の発散現象が量子臨界現象に由来することが確認できた。 種々の塩の熱容量を100 K程度の高温まで精密に測定し、各物質の格子熱容量をフラストレーションパラメターt’/tを横軸としてプロットした結果、低温領域においてのみ、スピン液体領域をピークトップとしたピーク形状を示すことが明らかとなった。一般的に格子熱容量は構成分子種と結晶構造によっておおよそ決定されるため、本物質群のような類似の物質間で格子熱容量が大きく異なることは稀である。この傾向は、電子の主たる自由度がスピンから電荷へと変化する過程に量子スピン液体相が存在することを示唆している。 電荷秩序塩と量子スピン液体塩の混晶塩では、量子スピン液体のギャップレス励起に伴う状態密度の増加を観測し、これらの傾向は反強磁性塩と電荷秩序塩の混晶塩でも再現された。これは、本物質系において観測された量子スピン液体の種々な特徴がフラストレーションパラメターt’/tの値によって特徴づけられていることを示す証拠である。 本年度は、得られた結果を主として国内の学術会議において発表した。また、次年度に開催される国際会議においても招待講演の依頼を受諾した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、反強磁性-量子スピン液体相境界における量子臨界現象の検証と異方的励起構造の解明である。量子臨界現象に関しては、重金属固溶体においてみられる非フェルミ液体的な臨界現象に似た兆候を観測した。この結果については、重水素化試料の測定により純粋な磁気熱容量の異常であることを確認した。また、この挙動を間接的に説明し得る熱容量挙動の観測に成功した。これらは当初の予想と合致する結果であり、本研究の目的のうち少なくとも半分は達成できたことになる。異方的励起構造に関しては、異方的励起とギャップレス励起それぞれに起因する磁気エントロピーの和が保存される傾向を観測している。これは、量子スピン液体における励起構造が少なくとも2種類の励起より構成されていることを示唆する結果であり、こちらも当初の予想に近い結果である。この傾向を詳細に検証すれば異方的励起構造に関する知見を得られると考えており、本年度の研究により研究計画において期待した成果を達成できると考えている。加えて、反強磁性塩と電荷秩序塩の混晶塩においても同様の挙動が観測できる見通しが立っており、上述した2つの特徴的な振る舞いが物質固有のものではなく、電子構造によって特徴づけられる普遍的な振る舞いであることが証明できると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究によって、量子臨界現象に関する知見については一定の結論が得られた。この結果については、積極的に学術誌等において研究発表を行っていく予定である。一方、量子スピン液体/反強磁性-電荷秩序混晶系では、スピン液体のギャップレス励起に起因する状態密度が上昇する傾向がみられたが、一次転移の影響や混晶における電荷秩序形成については、議論の余地がある。また、スピン液体における異方的励起の起源についても詳細を調べる必要がある。こうした状況を受けて、上述の混晶系の継続的な熱容量測定および高温領域における電荷秩序の検出を目的とした熱容量測定を行い、結果がまとまり次第研究発表を行っていく。申請者はこれらの実験によって本研究の目的が十分に達成できると考えている。
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Research Products
(7 results)