2013 Fiscal Year Research-status Report
パイロクロア物質群における磁気単極子がもたらす新しい量子状態・現象の理論的研究
Project/Area Number |
24740253
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
小野田 繁樹 独立行政法人理化学研究所, 古崎物性理論研究室, 専任研究員 (70455335)
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Keywords | 量子スピンアイス / 量子スピン液体 / トポロジカル絶縁体 / ゲージ場 |
Research Abstract |
パイロクロア格子を構成する希土類元素(PrやYbなど)の磁気モーメントに由来した量子スピンアイスと呼ばれる磁性体群は、極低温において通常の磁性体とは極めて異なる磁気的性質を示す。特に、磁化の単極子を運ぶスピノンと呼ばれる準粒子が、仮想的「光子」を輻射しながら磁荷に対するクーロン力によって相互作用する、磁気秩序を示さない量子スピン液体状態は、特筆すべき新しい物質状態である。また、この系における磁気秩序状態も、スピノンがボーズ凝縮し、Anderson-Higgs機構によって「光子」がエネルギーギャップを持ったスピノンのHiggs相として記述され、非自明な励起スペクトルを示す。この量子スピンアイス系に対する最も簡単な理論模型を、改良されたループアルゴリズムに基づいた量子モンテカルロ法を用いて解析した。その結果、スピノンが閉じ込めから解放されたスピン液体領域と、Higgs機構により閉じ込めが起こった秩序状態の間の1次相転移を極低温で観測し、さらに昇温とともに、比熱に2つピークが出現する。スピノンが閉じ込められる長さスケールが減少し、コヒーレンスを失った高温領域へのクロスオーバーを観測した。これらの結果は、ゲージ理論に基づいたスレーブローター法と呼ばれる手法を用いた解析から定性的に説明される。また、計画していたSchwingerボソン法を用いた解析は、いくつかの条件下でスレーブローター法の解析に帰着されることが分かった。 非自明なトポロジーを示すと期待されているパイロクロアIr酸化物に対する、有効ハバード模型の解析がカナダのグループで行われた。そこで、我々は電子相関を部分的に取り込んだLDA+U法に基づいた第一原理電子構造計算を、Ir系とRh系に対して、物質に即して格子定数を変化させながら実施した。その結果、一様圧力下でトポロジカル絶縁体状態と強磁性状態が安定になることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していたSchwinger boson法による量子スピンアイスの理論計算は、いくつかの条件下でこれまで進めてきたスレーブローター法による解析に対応することが判明した。そのため、当該年度では、これらの解析的手法を越えて、主に、近似が入らない量子モンテカルロ法による数値シミュレーションを進め、最も非自明な量子磁気クーロン液体(U(1)量子スピン液体)状態、および、有限温度での関連する相転移とクロスオーバーの存在を証明することに成功した。この点で当初の計画よりも進んだ結果を得ている。また、当初計画していた、量子スピンアイスの統一的理解を与える研究成果も、レビュー記事として執筆中である。また、パイロクロアIr酸化物の電子状態に関する論文出版は当初より遅れているが、当初重要性を認識していなかったRh系の理論計算を実施している。
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Strategy for Future Research Activity |
量子スピンアイスに関する研究については、中性子散乱実験、ミューオンスピン共鳴実験のそれぞれに対して、対応する理論研究を行ってきたが、今後、これらの共同研究の論文執筆・出版に尽力する。また、スピノンが凝縮した磁気秩序相における励起スペクトル、干渉効果の理論計算を計画通り推進する。一方、パイロクロアIr、および、Rh酸化物に関する研究については、これまでの成果を至急論文として出版する。また、パイロクロアIr酸化物に現れる強磁性状態を量子スピンアイス模型の観点から理解するための理論研究を進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
アメリカの大学に所属の研究者と、量子スピンアイスに関して急遽共同研究を行うこととなり、その共同研究者が平成26年度に来日するための招聘旅費・滞在費を確保する必要が生じた。また、ドイツの共同研究者との研究打ち合わせのための旅費を確保する必要性が生じた。これらは、主に、理化学研究所内の計算機をフル活用することによって、PC計算機の購入のために確保していた予算を繰り越すことで対応した。 上記のとおり、繰り越した予算は、主として、アメリカの大学に所属の研究者の招聘、および、ドイツへの渡航旅費に宛がう。
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