2012 Fiscal Year Research-status Report
メタマテリアルを用いた単一光子源の開発と輻射場制御
Project/Area Number |
24740270
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
中山 和之 東北大学, 高等教育開発推進センター, 助教 (80602721)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | メタマテリアル / 量子光学 |
Research Abstract |
光子の真空状態を制御することにより光と物質の相互作用を研究する分野は、共振器電磁気学 (CQED) として古くから取り組まれている。近年では量子情報物理学で重要な単一光子源の開発においても CQED の手法を用いて励起状態にある原子の発光レート、輻射形状の制御が精力的に研究されている。 我々は従来の共振器構造を用いた光-物質相互作用の研究とは異なり、金属-誘電体の混合多層膜で構成される非等方的な誘電率を持つハイパボリックメタマテリアル (HMM) を用いた単一光子源の開発と輻射場制御の研究を行う。特にHMMの分散構造によって生じる場の擬似的な真空状態の特異点を利用することで、従来の CQED の枠組みにとらわれない新奇なCQED実験の開拓と研究に主眼を置く。 まず混合多層膜の作製において重要なイオンビームスパッタ装置の開発をすすめる。これは四検出器型エリプソメトリと呼ばれる偏光解析法を用いることで、高精度な膜厚制御を行い HMMの作成技術の確立を目指す。その後量子ドットを発光源として、HMMによる場の真空状態密度の変化を発光過程の周波数分解、時間分解測定が可能なストリークカメラを用いた寿命測定を行うことで実証する。本研究によって共振器構造を持たない単独のメタマテリアルによってロバストかつ多モードの動作が可能な単一光子源の開発を目指すとともに多原子種間の相関の生成など、量子物理、量子情報物理における新たな研究分野の開拓を目指す。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初平成24年度は装置開発に主眼をおき、翌25年度に新奇なメタマテリアル構造での実験を行う予定であったが、従来の研究計画にはなかった「準周期メタマテリアル」と名付けた新奇な物質構造の発見、実験実証可能な理論設計を行うことができた。そこで研究計画を変更し、成膜装置の開発と新奇物理の実験検証を並行して行うこととした。 まず本研究で必要な装置開発の状況について報告する。本研究で取り扱う多層膜メタマテリアルは高質な混合多層膜の成膜が重要となる。多層膜を作製する場合成膜レートの割り出しが重要であり、これは通常装置を真空から開放し、成膜レートを事前に割り出す必要がある。しかしながら成膜レートは毎回の実験で微妙に変わるものであり、真空を破らずに複数の材質の成膜レートを割り出すことが求められる。そこで以前研究室で開発した四検出器型エリプソメトリの手法を改良し、膜厚のその場計測を行うことに成功した。これは 2013 年秋の応用物理学会で発表の予定である。 次に新奇物理の実験検証について報告する。メタマテリアルでは構造が波長より十分小さいことが要請される。それ故メタマテリアルの特性を考える上でサブ波長構造内の秩序性がこれまであまり注目されて来なかった。我々はランダムもしくは周期構造しか考慮されてこなかったハイパボリックメタマテリアルの構造内に、準周期構造を導入することで光と物質の相互作用が強まり、発光寿命計測によってこの効果が検証可能であることを見出した。サンプルの作製を奈良先端大学院大学の冨田助教の協力のもと同機関の設備で行い、実験を東北大学光物性物理研究室で行い実験の検証に成功した。これは 2013 年 3 月 27 日の物理学会 (広島) で報告された。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究計画は当初の予定より進展しているため、次年度初頭に四検出器型エリプソメトリの改良に関する成果と準周期メタマテリアルの提案と実証実験の成果を海外論文雑誌への投稿を行う予定である。また 2013 年 6 月 30 日から行われる国際会議 (CLEO-PR2013: 京都) への発表投稿が受理され、本研究の報告を行う予定である。 本研究の実験的な発展としては我々のオリジナルである準周期構造を持つハイパボリックメタマテリアルを用いて、共振器構造を用いない広帯域な自然放出増強効果の単一光子レベルの制御を目指す。このため数種類の量子ドットを混ぜた発光層を形成し、複数の原子種の自然放出の同時制御及び光子の量子性を計測する実験を行う計画である。そこで前年度まで行なっていた準周期メタマテリアル上に塗布した高濃度な量子ドットからの発光をストリークカメラによって計測し、寿命を観測する実験とは異なるアプローチを取る。一般的に光の量子統計性を計測するためには単一光子レベルまで極限的に光を弱める必要があり、単一光子検出器とイベント間の相関を取る光子相関実験を行う必要がある。 申請者は 2013 年 4 月から東北大学高等教育開発推進センターから福岡大学理学部に異動した。そこで研究計画の調整、見直しが必要となった。福岡大学では新たに光子相関測定系を立ち上げ、引き続き奈良先端大学院大学と連携を取りつつ最適なサンプル作製を行う予定である。現在三種類の量子ドットを混ぜ、同じサンプル上に用意することで 600 nm ~ 800 nm、約 200 nm の広範囲に渡って強い自然放出増強が起きることが、数値的な見積りによって期待される。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
昨年度は奈良先端大学院大学との共同研究をはじめ、当初の研究計画から大きな変更と進展が見られたため、予算が大きく繰り越すことができた。概算で約 200 万円の予算が計上される予定である。この予算の大きな使用目的として光子相関測定に必要な単一光子検出器の購入に充てる予定である。フォトン数計測に用いる単一光子検出器は Excelitas (旧perkinElmer) 社製シングルフォトンカウンティングモジュール (SPCM- AQRHシリーズ) が広く用いられ信頼度は高いが、1 台あたり 100 万円程度と高価である。さらに光子検出イベント間の相関を取るためには最低 2 台必要であるため設定予算を超えてしまう。しかしながら最近、時間相関単一光子計数法で有力な製品開発をしている PicoQuant 社が通常では感度の無いIR(900 nm 近辺)でも感度を持ち、NIR (670 nm)近辺でも75%を超える量子効率を誇る安価なシングルフォトンカウンティングモジュールを開発した。近赤外近傍で高い量子効率を持つ本製品は、本研究計画で測定する 600 nm ~ 800 nm の光で高い検出感度を持ち、さらに 2 台で 160 万円程度と本研究の予算内で購入可能である。残りの予算は共同研究者との研究打ち合わせのための出張費用、論文発表や会議での参加費用、及び薬品などの消耗品の補充に使用する予定である。
|