2012 Fiscal Year Research-status Report
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24740273
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
根来 誠 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (70611549)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | スピン増幅(スピンアンプ) / 量子非破壊測定(QND) / 核磁気共鳴(NMR) / 動的核偏極(DNP) / 光励起三重項 / ペンタセン(pentacene) / p-ターフェニル(p-terphenyl) / スピン拡散 |
Research Abstract |
高利得のスピン増幅を用いた量子非破壊測定の実現を目指し、これに最適な分子として1-13C, 1-fluoro-p-terphenylを合成した。この分子では我々が以前提案した方法によって13Cスピンの測定したい成分を、19Fスピンに仲介させることでまわりの1Hスピンへと次々にコピーできて増幅することができる。コピーを1Hスピンへ蓄積する際には、スピン拡散と磁場循環を利用しており、スケーラブルに増幅の利得を増やすことができる。増幅された1Hスピンを測定することで13Cスピン状態を非破壊測定できる。 p-terphenylにこの合成分子とpentaceneを二重ドープしたサンプルにおいて、室温下で利得14倍のスピン増幅を用いた量子非破壊測定の実装に成功した。増幅器となる1Hスピンの初期状態には、光励起三重項電子を用いた動的核偏極によって約10%まで高偏極化された状態を用いており、100%初期化された一つのスピンをプローブとして用いた従来型の量子非破壊測定に比べても約1.4倍大きな信号が測定できる。 スピン増幅はスケーラブルな方法で実装されており、naphthaleneを用いた別のサンプルでは約140倍の利得の広義のスピン増幅を実現している。高利得のスピン増幅は、量子情報処理に必要不可欠な量子非破壊測定の感度の向上を可能にし、また、これまで測定することができなかった微小部位の核磁気共鳴分光を可能にするであろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度の目標のひとつは、利得10以下のスピン増幅を用いた非破壊測定であった。大阪大学理学研究科森田先生の協力のもと、当初は平成25年度に予定していた高利得を狙える分子の合成を、平成24年度のうちに終えることができた。このサンプルを用いて偏極率10%以上の高偏極状態で、利得14倍のスピン増幅を用いた非破壊測定が実現できた。数種類の濃度のサンプルをすでに作成済みで、これらを用いた実験をおこなうことで今後スピン拡散とスピン増幅の関係性を定量的に調べながらさらなる高利得を狙っていく。 平成24年度のもうひとつの目標は、高精度量子ゲート操作技術のスピン増幅への適用で、従来の数値的パルス設計手法を用いたゲートパルスの設計はすでにできている。最適制御理論に基づいた従来の数値的パルス設計手法の欠点は、系のすべての情報を入力する必要があることであり、計算コストが系の大きさに対して発散してしまうことである。申請者らは、この問題を解決する新しい数値的設計手法を考案した。この手法は従来の数値的設計手法に、NMR分光に古くからある平均ハミルトニアン理論に基づいて系の対称性を最大限に考慮する解析的設計手法を取り入れたものとなる。スピン増幅の実験はこの新しい設計手法を用いたいと考えたため、平成24年度はこの手法の確立に重力した。論文はすでに投稿し、現在審査中である。平成25年度はこの手法で設計されたパルスでの実装を目指す。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の最も重要な目標は、さらなる高利得のスピン増幅を用いた非破壊測定の実現である。 まず、平成24年度に提案した数値的パルス設計手法で作成した高精度量子ゲート操作の実験的研究をすすめ、スピン増幅への適用を目指す。また、合成した分子とホスト物質をさまざまな比率で混合したサンプルが作成済みであり、これらのサンプルを用いてスピン増幅実験をおこなっていき、スピン拡散とスピン増幅の関係性を明らかにしていく。数値的シミュレーションもおこなうことでメカニズムを明らかにすることによって、また、上記の高精度量子ゲート操作を用いることによって、さらなる高利得のスピン増幅を用いた非破壊測定の実現を目指す。 当初予定していたもうひとつの目標は、高分解能分光実験への応用である。これに道筋をつけるためにまず、光励起三重項電子を用いた動的核偏極のマジック角回転(MAS)下での実現を目指す。また、提案した新しい数値的パルス設計手法をMAS下でのパルス操作へも適用できるように改造する。高分解能固体NMR分光にはMAS法が不可欠であり、これらの要素技術がMAS法と両立できるようにし、これらを用いたスピン増幅実験に挑戦する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
さまざまな研究者と議論するために、これまでに得られた研究成果に関して、また新しい結果が出るたびに学会発表をおこなう。 高精度量子ゲート操作の実験や高利得スピン増幅の実験をすすめていくうえで、実験装置の自動化への対応と高度化をおこなうための電子回路部品を購入する。
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Research Products
(7 results)