2013 Fiscal Year Research-status Report
自走液滴及びその集団系を用いた非平衡揺らぎの特性評価
Project/Area Number |
24740287
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Research Institution | Aichi University of Education |
Principal Investigator |
住野 豊 愛知教育大学, 教育学部, 講師 (00518384)
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Keywords | 非平衡物理 / 集団運動 / 自発運動 / ソフトマター / 散逸構造 |
Research Abstract |
本研究課題では平衡より遠く離れた系での揺らぎの挙動を解析することが目標である.題材としてはマランゴニ効果や会合体の生成により生じる自発運動系や,その集団系に見られる揺らぎを対象とした. 本年度は物理化学系を用いた自発駆動の実験系の運動機構に関して小角X線散乱(SAXS)・小角中性子線散乱(SANS)観察より多くの知見が得られた(A-1).またヘレショウセル中へ溶液を注入し,注入した液体の表面に弾性体が生成する系を作成し,界面の揺らぎに関し実験・理論的に理解を進めた(A-2).更にマランゴニ効果を用いた自発駆動系に関して,集団運動系の作成を目指し2粒子の相互作用を実験的に解析した(B).最後に理論的視点から集団運動の数理モデルの解析(C)を継続した. 以下に具体的な成果を一部記す. (A-1) 会合体形成による界面運動の理解 水相中・油相中に界面活性剤会合体の構成要素を分離して用意し,この2相を接触させると界面が自発的に動く.これまで会合体の受動的な弾性に基づき運動を理解するモデルを提唱していたが,次元解析的な考察から受動的な弾性体のみ考慮すると界面運動を実現できないことを見出した.そこで本年度は前年度に引き続きSAXS・SANSを用いた観察により,会合体が生成後構造転移を示していることを確かめた. (B)マランゴニ効果を用いた回転運動系の作成 界面張力の不均一が気液界面や液液界面上で生じると、界面張力の空間勾配に比例したズリ応力が生じ流動が生じる.本年度はこのようなマランゴニ効果で運動する粒子,特に自転回転を示す粒子を作成し,その同期状態に関して解析をすすめた. (C)集団運動モデルの解析 運動の向きに有限の相関時間を持つ自発駆動粒子に関して考察を進めた.粒子間には相互作用を極性・非極性の向きを介した2体相互作用が働くとした.この数理モデルに関して詳細な相図作成を行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,(a)会合体生成による液滴運動系と(b)マランゴニ効果による自発運動系の2系統に関する実験に関して集団化の影響に特に着目して実験を行い,(c)運動方向の記憶の影響を導入した自発駆動粒子の集団挙動に関して解析を進めるという予定を当初設定していた. この当初目標に関して,多くの試行を繰り返したものの(a)に関しては顕著な液滴間の相互作用を導入することに苦慮しておりその集団挙動に関する実験に進めていない.また(b)に関しては,安定して集団を観察し続ける実験系の構築を試行している状態でありこちらも集団挙動を安定的に観察できないでいる状況である. これらの苦慮の一方で,(a)の基礎となる界面運動の機構に関してはSAXS・SANSを用いた実験を通して会合体の構造,特に会合体が生成後に示す構造変化の確認を含む多くの知見が得られており,現在2報の論文を作成中である.この点,年度当初と比べ予定外の進展と言える.また会合体生成による界面不安定化に関して新たな系を発見・構築し,こちらも論文を作成中である.こちらも大幅な進展が予想外に生まれた.(b)に関しては,液滴の代わりに回転する自発運動系を作成し,集団化を見据えた粒子間相互作用の観察に成功している.この知見を生かすことで,回転と言う内部自由度を持つ自発運動系を作成し集団化による運動様相の変化を理解できるものと期待している. (c)に関しては当初予定通り理論モデルの解析,相図の構築を順調に進めている.特に 理論モデルに関しては関連するモデルを4種作成し包括的に相図の構築を行っており,今後の普遍的側面の議論に向け順調に進んでいる. 以上を総合すると,25年度は当初予定と比べ問題点もあるものの,予想外の進展もありおおむね順調に進んでいるものと考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
26年度は研究計画最終年度であるため,研究成果の取りまとめに関して進める.これは前述した3報の論文を作成・発表することを意味している.また国際学会での発表も精力的に進める. 一方で,本研究の目標である,集団運動に見られる揺らぎの実測と定量化を進めるため.集団運動を示す物理化学系の作成にも精力的に進める.この際,決め手となるのは定常的に液滴の運動を観察し続けられる容器の作成である.ここではシャーレなどの容器の表面加工を行い,定常的に集団運動する液滴系を作成する.また26年度は液滴に磁性粒子を混合し磁場による外部摂動を実現する.現時点ではトルエン中にナノ粒子が分散したものを応用し,外部電磁石を用いることで磁場を任意に変化させ運動に摂動を与えることを目指す. また液滴系にこだわらず,水面上の樟脳粒子系や加振粉体系,ベシクル系など定常的に自発運動を示す系に着目し,これらの集団運動に見られる揺らぎを定量的に観察することも視野に入れる.この際,加振粉体系の構築に必要な加振機等に関しては大学の施設等を流用することも考える. 以上に加え,現在まで順調に進展している会合体生成による界面運動系の理解を進める.この系に関しては運動を引き起こす上で会合体の構造転移が重要となることが示唆されつつあるが,如何にして構造転移が界面運動に繋がるのかは明らかにされていない.26年度はこの点を理論的に理解することも他の研究者との議論を通して進めていく. これらと加え,集団運動の数理モデル系に関しては,これまでの理論モデルの解析およびその知見の取りまとめを行うとともに,より簡易な数理モデルを作成して数値計算だけではなく解析的な取り扱いで理解を進めることも行う.この際,実際の実験系への応用が容易な形で単純化すること,特に自転粒子系への応用も視野に入れる.
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