2012 Fiscal Year Research-status Report
物理から細胞形態に迫る:多細胞モデルの構築と細胞間相互作用の制御
Project/Area Number |
24740292
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
柳澤 実穂 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (50555802)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | ソフトマター / 多細胞モデル / ベシクル / 生物物理 / 生体高分子 / 膜界面 |
Research Abstract |
複数の細胞から成る多細胞生物は、細胞膜を介した細胞間相互作用を感知しながら生命機能を果たしている。本研究では、単一細胞モデルとして用いられてきた細胞サイズ液滴(油中水滴)やリン脂質膜小胞(ベシクル)を集積し、階層構造をもつ多細胞モデルを構築した上で、隣り合う細胞による空間的な束縛条件下での膜変形や膜接着について実験的研究を行う。これにより、生物が複数の細胞形態をいかに制御しているのかという生命の機構を物理的に解明することが本研究の目的である。 平成24年度は、脂質単分子膜で覆われた細胞サイズ液滴同士を接着させ、接着力が膜を構成する脂質の種類によってどう変化するかを系統的に調べた。その結果、脂質のアルキル鎖に含まれる炭素数が16よりも小さくなると急激に吸着力が小さくなることを見出した。生体膜には多くの脂質分子が含まれているあ、その殆どの脂質は炭素数16以上の長鎖脂質であることが知られている。上記液滴の接着面には生体膜と同じく脂質二分子膜が形成されていることから、生体膜はその二分子膜構造を安定させるために長鎖脂質を多く含む、と考えることができる。以上の研究結果は、生物物理学会や化学会において報告すると共に、論文投稿中である。また、細胞間に含まれるヒアルロン酸などを液滴内に添加すると、脂質の種類によって接着力が変化することも見出している。さらに、ベシクル内部に生体高分子溶液を内包し、膜内外の浸透圧差によって細胞内濃度まで濃縮する手法や、ベシクル内に生体高分子ゲルからなる階層構造を形成する手法も確立しつつある。平成25年度は、これらを発展させながら細胞数を増加させることで多細胞モデルを実現したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
均一相状態の脂質単分子膜で覆われた細胞サイズ液滴を接着させた二細胞モデルを構築し、細胞間に働く接着力を定量評価した。その結果、接着力は脂質の疎水基の長さに強く依存し、また安定性は膜の相状態に依存することを見出した。さらに膜内に生体高分子であるヒアルロン酸や糖などを添加すると、膜との相互作用を膜接着力の変化として解析できることを見出している。これらの結果は生物物理学会や化学会で発表し、また脂質のみの結果についてはすでに論文投稿しているため、平成24年度の研究目的を概ね達成することができたと言える。しかし、3個以上のモデル細胞を空間的な配置を維持しながら接着させる技術については改良すべき点が残っており、現在マイクロマニュピュレーターやマイクロ流路を用いた接着を試みている。平成25年度は、この点をクリアしながら階層構造をもつ多細胞モデルの構築を目指したい。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、3個以上のモデル細胞からなる多細胞モデルを構築することを目指す。これまでの実験から膜接着を誘起させるリン脂質PEを50mol%以上含む多成分ベシクルでは、ベシクル同士が容易に膜接着してしまうため、空間配置の制御が困難であることが分かった。そこで、リン脂質PEに加え、膜接着を誘起しないリン脂質PCを混合したベシクルを作成し、それを集積させた後にPCとPEを膜内相分離させて膜接着を引き起こすことを試みる。ベシクルの集積には、マイクロマニュピュレーターとマイクロ流路を用いる。 さらに、細胞間の力学的相互作用が膜変形へ及ぼす影響を調べる上で、細胞間に存在するコラーゲン・ゲルに着目する。ベシクルの外側に溶解させたゼラチン水溶液を導入し(コラーゲンを熱変性させたもの)、その後冷却することでゲル化させる。準備実験から、モデル細胞内ではゲル化がバルクに比べ早く進行すること、またゲルの配向性や形成される場所が、脂質の種類(PCとPE)によって変化することが分かってきた。これは、空間束縛や膜界面がゲル化へ影響を及ぼすことを意味している。よって相分離したベシクルの膜内外でゲル化させると、脂質組成に応じたヘテロな細胞間相互作用が実現されると期待できる。以上、の研究を通して、実際の生物により近い階層構造をそなえた多細胞モデルベシクルを構築し、ベシクル間の相互作用が引き起こす膜変形機構を明らかにしたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
消耗品としては、ベシクルの大量作成に必要となる遠心機(40万)、蛍光脂質や生体高分子等のサンプル購入費(計30万)、インジェクター用ガラス管を含む一般消耗品(計30万)を計上している。また平成25年度は最終年度であるので、International Soft Matter Conference 2013(イタリア・ローマ9月)に参加し研究発表をするための旅費として約50万を計上している。また、国内学会として日本生物物理学会(京都10月)と物理学会(徳島9月、神奈川3月)に参加する予定である(旅費、計20万)。
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Research Products
(11 results)