2013 Fiscal Year Research-status Report
細胞骨格の制御機構の統一的理解:アクトミオシンがつくる動的秩序構造の双安定性
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24740294
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
宮崎 牧人 早稲田大学, 理工学術院, 次席研究員 (40609236)
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Keywords | アクトミオシン / 細胞骨格 / 自己組織化 / 分子モーター / リポソーム |
Research Abstract |
細胞サイズの微小液滴内でアクチンを重合させると、リング状のアクチンバンドルが液滴の赤道面に自発的に形成されることを発見した。リングの自発形成には液滴の直径がアクチン繊維の持続長よりも小さいことが必要であることもわかり、細胞サイズの微小空間の特異性を明らかにした。ミオシン(HMM)をアクチンの重合反応開始と同時に封入しておくと、ミオシンによるアクチンネットワークの動的再配置によってリングの形成が促進されることがわかった。アクチンリング上のミオシン密度が上昇するとリングは収縮し、最終的にリングは分解された。リングの収縮速度は収縮前のリングの直径に比例する、という細胞の収縮環に特徴的な性質を再現し、リングの収縮にはアクチン繊維の脱重合は必要ではないことも明らかにした。細胞と比べて非常に単純な系にもかかわらず、アクトミオシンリングの自発形成と収縮・分解という収縮環の基本的なダイナミクスを再現できたことから、収縮環の自発形成・収縮に必須な構成要素と物理的条件を明らかに出来たと言えるだろう(論文投稿中)。 界面通過法によって作製したリポソームの膜の多重性の定量的評価を行なった。その結果、この手法で作製したリポソームは内包物や脂質組成に依らず、90%以上が細胞膜と同じ単層の脂質二重膜であることを明らかにした(論文投稿中)。さらに、アクチン繊維の極性を97%の高効率で制御しつつ基板に平行に配向する技術を確立し、学術論文1編にまとめて報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
最終年度で実施予定であった収縮環機能の人工発現に関する研究は、前年度の予備実験ですでに手がかりを得ていた。特にこの課題は達成されれば多岐の分野に大きなインパクトを与えるに違いないと考え、実施年度を前倒しして優先的に研究を進めた。その結果、細胞サイズの液滴内で収縮環様の構造を自己組織化させ、さらにリングの収縮という細胞質分裂に必須な生体機能を人工細胞系で再現させることが出来た(論文一編投稿中)。アクトミオシンリングを内部に含んだ液滴をリポソームにすることにも予備実験で成功しており、このリポソームの作製手法の基本的性質(膜の多重性や形成効率等)を定量的に評価し、学術論文としてまとめることが出来た(論文一編投稿中)。従って、この課題は予定よりも順調に進んでいると言えるだろう。 ストレスファイバー様の秩序構造の人工発現も最終年度の研究課題であるが、本年度はこの課題達成のために必要なアクチン繊維の極性を制御する技術を確立し、学術論文1編で報告することができた。一方で、今年度予定していたアクトミオシンバンドルの形成・分解の双方向制御は予備実験で成功してはいるが、まだ実験の再現性が良くないため定量的な測定は行なえていない。この研究課題に関しては予定よりも遅れているため、最終年度に重点的に取り組むべき課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度で実施予定であった収縮環機能の人工発現に関する研究は順調に進んでおり、工学的及び医学的な研究意義も大きいため、最優先で研究を進める予定である。まずリポソームの膜とリポソーム内で自発形成したアクトミオシンリングを結合させる技術を確立し、リングの収縮力によってリポソームを分裂させることを目指す。膜の硬さやリポソームとアクトミオシンリングの接着強度がリング収縮の動態に及ぼす影響を調べることで、細胞質分裂の仕組みを明らかにしたい。 続いて、予定よりも遅れてしまっているアクトミオシンバンドルの形成・分解の双方向制御とヒステリシスの検証に注力する。まず双方向制御が再現性高く出来る実験系を確立し、定量的な測定によってヒステリシスの有無を重点的に調査する。さらに空間的な欠陥がアクトミオシンのネットワーク構造に与える影響を調べ、ストレスファイバーの自己組織化原理を解明することを目指す。実験と平行してアクトミオシンバンドルの粗視化モデルを構築し、シミュレーションによってバンドルの力学的安定性を調べる。その結果を実験にフィードバックさせることで、アクトミオシンバンドルに特徴的な動的物性と、その性質が発現する分子メカニズムを明らかにすることを目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
学術論文の執筆に予定よりも時間がかかってしまい、実験の進行が一部で遅れたため。 進行が遅れてしまっている実験に次年度使用額を充当し、実験を進める。次年度に交付予定の研究費の使途に関しては以下の通り。ウサギ骨格筋からのアクトミオシンの精製、アクチン繊維の重合・脱重合ダイナミクスを制御するタンパク質(フォルミン、プロフィリン、ゲルゾリン等)の発現系の構築と精製、及びそれらのタンパク質を観察するための蛍光色素などの試薬とアクトミオシンの各種阻害剤を購入する。収縮環機能の人工発現系の研究においては、主にリン脂質と、リン脂質とアクトミオシンを結合させる試薬の購入費に当てる。実験データの解析のための専門パソコンソフト、実験・解析データの保存のための大容量記録媒体を必要に応じて適時購入する。また、アクトミオシンバンドルの粗視化モデルの数値シミュレーションのためにワークステーションを購入する。
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Research Products
(9 results)