2012 Fiscal Year Research-status Report
既知のメカニズムから予測される地震波伝搬時磁場変動と実際の磁場変動の比較
Project/Area Number |
24740304
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
山崎 健一 京都大学, 防災研究所, 助教 (20436588)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 地震現象 / 地磁気 / 電磁誘導 / 界面導電効果 |
Research Abstract |
地震波伝搬時に生じる磁場変動について、既知のメカニズムから生じる理論値をまず求め、観測値からそれに合わないものを除いてゆき、説明できないものがあるかを明らかにするのが本計画の具体的内容である。この計画の中で平成24年度に得た主な成果は次の3点である。 [1] 平面波近似できる地震波が層構造の電気伝導度をもつ地殻内を伝搬する際に電磁誘導により生じる磁場変動について数値計算を実施した。その結果、地震波の位相と磁場変動の位相は、詳細な電気伝導度構造によらずにほぼ一定である、という結果を得た。この結果を用いれば、もし観測される磁場変動の振幅・位相がある範囲を外れた場合に、地下の電気伝導度構造の詳細を知らなくても観測された磁場変動が電磁誘導起源ではないと結論できる。 [2] これまで周波数領域で表現されてきた有限電気伝導度地殻内部の電流源から生じる磁場変動の伝達を、時間領域で表現することに成功した。これにより、地震発生後、地震波到達する前に生じた磁場変動の観測値を電磁誘導その他から生じる磁場変動の理論値と比較して観測される磁場変動の成因を議論ことが可能となる。 [3] 東北地方太平洋沖地震の際に報告されている地磁気強度の変化量と応力磁気効果の理論計算値を比較することにより、応力変化と磁化変化の比例係数である応力磁化係数を見積もった。その結果、この地域の応力磁化係数は、いくつかの先行研究で得られているほど大きくはないが、実験室スケールで得られる値よりは数倍程度大きそうだ、という結論を得た。この結果は、地震波伝搬時に観測される磁場変動が応力磁気効果起源か否かを判定する際に必要となる理論計算のパラメータ設定において有用である。(注:この段落に記載した成果の達成および発表に科研費は使用していないが、実施課題の遂行において重要な意味を持つので、本欄および成果欄に記載した。)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の目的で掲げた初年度の達成目標は、「電磁誘導」と「界面導電現象」の2つについて地震波伝搬時磁場変動の定式化を行い、定量的な性質を明らかにすることであった。 電磁誘導については研究実績の概要[1] に記載した通りの成果を得た。大地の電気伝導度構造についてまだ議論が尽くされているわけではないが、これはほぼ当初計画に見込んでいた通りである。よって電磁誘導に関わる部分については計画通りに進行していると評価できる。 一方界面導電現象については、研究開始後に、実施者の想定していなかった一般的な成果が海外の研究者によって発表された[Gao, 2012, Geophys. J. Int.]。そのため、界面導電現象についての当初計画の一部を取りやめた。つまりこの部分は、実施者自身は計画通りに実施していないにもかかわらず、より強い結果が得られる見込みである。 界面導電現象についての研究実施にあてる予定であったエフォートは、電磁誘導の部分をさらに発展させることに費やした。その結果、研究実績の概要[2]に記載した成果を得た。これは当初の予定を超えるものであり、平成25年度に実施を予定している観測値との比較の際に当初予定していたよりも多くの観測データを対象とすることが可能となる見込みが生まれた。また、研究実績の概要[3] に記載した成果も、平成25年度計画を実施する上で有用である。 以上を総合すると、当初計画の全てを実行してはいないが、計画全体を通じた最終目標である「既知のメカニズムと観測値との比較」という観点からはより高い結果を期待しうる準備が整ったと言える。そのため、最終目標への接近の度合いという観点からは「当初の計画以上に進展している」と言えるのだが、その一部は実施者以外の要因によってもたらされた結果であるので、この点を差し引いて、自己評価を「(2)おおむね順調に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
すでに得られている結果のうちまだ論文として発表していない部分(研究実績の概要[2])をまとめ、国際誌に投稿する。 平成25年度は計画最終年であるので、申請時点での計画通り、地震時磁場変動の観測値とこれまでに得られた理論値との比較を行うことで、観測値と既知のメカニズムが予言する理論値が一致するか否かを確認する。 理論値の計算については、当初想定していなかった時間領域での解もこれまでに一部得られたため、当初計画を一部拡張する。すなわち、研究開始時点では観測値と理論値のスペクトルの比較のみをおこなうことを計画していたが、時間領域での波形の直接比較を合わせて実施する。その際には、地震波伝搬時だけではなく、地震波到達前の変動も対象とする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
成果の概要[2]に記載した内容を国際誌に投稿する準備を進めている。そのために必要な費用を支出する(英文校閲50千円,掲載・掲載料100千円)。 理論値と観測値を比較する際に中間結果を含めて大量のデータを扱う必要がある。そのための計算機購入等にあてる費用を支出する(計算機300千円、周辺機器およびソフトウェア100千円)。なお、当初計画において計算機は平成24年度内に購入する予定であったが、同年発売のオペレーティングシステムの安定性等についての評価が固まってから購入することが作業時間短縮のために有効と考えたので、平成25年度に当該予算執行を持ち越した。 国内外の学会で、各申し込み時点までで得られている成果を発表する。そのための投稿料・参加料・旅費を支出する。(国内学会として地球惑星・地球惑星圏学会講演会(高知市)および日本地震学会秋季大会(横浜市)のために200千円を、国際会議として米国地球物理学連合秋季大会のために380千円を予定) 年度内には最終目的である観測値と理論値との比較についての一定の成果が得られている予定であるので、成果(成果の概要[2]とは異なる)を国際誌に投稿するための費用を支出する(英文校閲50千円)。 上記の他、手計算等の際に必要となる消耗品類(文房具等)を購入するための費用を支出する(14千円)
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