2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24740305
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
高田 陽一郎 京都大学, 防災研究所, 助教 (80466458)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 巨大地震 / 合成開口レーダー解析 / カルデラ / 数値シミュレーション / 火山 |
Research Abstract |
差分干渉合成開口レーダー(InSAR)解析を行い長波長トレンドを除去することで5つの火山地域(秋田駒、栗駒、蔵王、吾妻、那須)に東北地震に伴う局所的な沈降を確認した。沈降原因を調べるために、これらの沈降地域と地質学的データを慎重に比較した。その結果、5つの沈降域は特に熱流量が高い地域と一致し、温泉温度の高い地域とも良く一致した。さらに、近傍にカルデラクラスターを伴うことも明らかになった。特に栗駒山周辺においては沈降域と個々のカルデラが良い対応を示した。これらは全て大きな空間的広がりを持つため、InSARで捉えた沈降域の水平スケールが10-20kmと巨大であることに回答を与える。即ち、沈降域の地下には巨大かつ高温の深成岩体およびマグマが存在しており、それらが東北地震に伴う東西引張センスの応力変化によって変形したと考えられる。上記の巨大な高温媒質の有無は、巨大地震に伴い火山が沈降する上での必要条件と言える。 地表沈降メカニズムを定量的に調べるために弾性媒質中に弾性定数が小さい(変形しやすい)弾性媒質を埋め込み引張応力を課した場合を有限要素法で計算したが、地表沈降パターンはInSAR解析結果と異なった。そこで、液相の三軸不等楕円体の媒質が弾性体中に存在する場合を境界要素法で計算したところ、5つ全ての沈降域のInSAR解析結果を良く説明した。 次に吾妻と蔵王に焦点を絞り、沈降域の近傍にあるGPS観測点(GEONET)の地震時変位を衛星視線方向成分に変換してInSARと同様に長波長成分を除去した所、InSAR解析の結果と大変調和的であった。次に、沈降を引き起こした高温媒質のレオロジーに拘束を与えるべく、これらのGPS観測点の時系列解析を行った。その結果、沈降量の大部分は地震後1日から2日の間に引き起こされていることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画以上に進展しているのは、地質学的データとInSAR解析結果との比較である。沈降域がなぜこれほどまでに(水平スケール10km-20km)巨大なのか、という点は大きな課題であった。熱流量、カルデラの分布、および温泉の泉温分布をInSAR画像と比較したことで、この問題は解決した。特に、栗駒地域ではカルデラ・熱流量・沈降の3つが大変良い相関を示した。さらに調査した結果、秋田駒地域では沈降地域から実際に極めて若い花崗岩体が掘削されていたことも明らかになった。これらの比較から、本計画の目的である「沈降した火山としなかった火山の違い」に対して、巨大な深成岩体(およぼそれに伴うマグマ)の貫入が必要条件であると結論できる。 次に、このような沈降を引き起こす高温媒質の巨視的レオロジーを調べる上で、GPSデータの時系列解析を用いることで当初計画以上に強い拘束を与えることができた。沈降量の大半が地震後1~2日以内に発生しているということは、地震に伴う応力変化に対する応答の内、周囲より変形し易い媒質の弾性応答ないしは極めて粘性率が低い媒質の粘性応答のどちらか、あるいはそれらの組み合わせ(粘弾性応答)が巨視的レオロジーを構成していると考えられる。 また、境界要素法を用いて5つ全ての沈降域について観測量を説明することが出来たこと、及びそれぞれのパラメタ―間のトレードオフを理解したことも予想以上の進展である。 一方、当初の計画では、初年度は三軸不等楕円体の粘弾性媒質を弾性媒質中に埋め込み、これが地震に伴う東西引張応力変化によってどのような地表変形を引き起こすかを有限要素法で計算する計画であった。しかし境界要素法解析が思った以上にうまく行ったため、有限要素法解析を計画通り行う時間は無かった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の推進方策は(1)有限要素法解析、(2)GPS解析、(3)InSAR時系列解析、の3つである。H24年度の境界要素法解析によって地表沈降を良く説明する地下の高温媒質の位置と形状が5つの火山全てについて分かっている。しかしこの解析では高温媒質のレオロジーは流体として近似されている。この近似が正しいかどうかを確かめるためにも、有限要素法解析が必要である。昨年度購入したAbaqusを用いて、弾性体中に埋め込まれた粘弾性体から成る三軸不等楕円体の変形を計算する。この際、初期形状として境界要素法解析で得られた最適解を用いる。 平成24年度はGPS解析(GEONET)が威力を発揮したが、国土地理院発行の「日々の座標値」にとどまった。今後は地表沈降の弾性変形分を定量的に測るためにGPSソフトウェアを用いて地震を挟む変位を秒単位で調べる。 最後に、日本の衛星「だいち」(ALOS)が運用を停止したために、これまでは各火山1シーンしか干渉画像を得られず、沈降の時間変化をGPSより高い空間分解能で把握することは出来ていない。調査の結果、蔵王に関してはドイツの衛星TerraSAR-XがSAR画像を撮像したことが分かったので、これを解析する。Xバンドは短波長なのでALOSのように高い干渉性は補償されないが、無雪期のデータがあることと(ALOSのデータは積雪期)、感度がALOSよりも高いため、この解析を行う価値は十分にある。この際に重要な点はInSAR時系列解析を行い、ノイズを取り除き時間変動を求めることである。解析にはStanford大学で開発された無償ソフトウェアStaMPS/MTIを使用する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額(B-A)が発生した主たる理由は、ワークステーションを購入しなかったことである。「現在までの達成度」に記した通り平成24年度は有限要素法解析に重きを置かなかったために、既存の計算機で足りた。しかし、本年度はこの解析を重点的に行うことに加え、「今後の推進方策」に記した通りInSAR時系列解析を行う。InSAR時系列解析はメモリとハードディスクの双方が大きい必要がある。早期にこのワークステーションを購入し、遅滞なく研究を進める予定である。
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