2013 Fiscal Year Research-status Report
複数の地球観測センサーを利用した北極の極成層圏雲と成層圏オゾン層の化学過程の解明
Project/Area Number |
24740318
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
齋藤 尚子 千葉大学, 環境リモートセンシング研究センター, 助教 (50391107)
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Keywords | 成層圏オゾン / 塩素化合物 / 極成層圏雲(PSCs) / 国際宇宙ステーション / 人工衛星 / 国際情報交換 |
Research Abstract |
本研究は、2009/2010年の北極の冬春季に着目して、国際宇宙ステーション搭載のSMILESやその他の衛星データを用いて、気温場とPSCsの出現およびその化学組成、オゾン破壊物質とリザボア物質の濃度やオゾン濃度などを時系列的に解析し、それぞれの関係性を定量的に明らかにすることで、将来のオゾン層回復の予測の高精度化に貢献するというものである。 H25年度は、情報通信研究機構で開発されたSMILESのL2研究プロダクト(L2r)のV2.1.5データを用いて、2009/2010年の北極成層圏の塩素化合物の活性化(ClO濃度の増大)と温度場との関係を詳細に解析した。その結果、SMILESで太陽天頂角96度以下(昼間)に低温下で観測されたほとんどのデータについてClO濃度が高くなっており、PSC粒子上の不均一反応によってオゾン破壊に不活性な塩素が活性化されたと考えられる。観測時に十分に低温でも活性化が起こっていないデータについては、太陽天頂角が高いことから、塩素の活性化に十分な光が当たっていなかったためと推察される。一方、観測時の気温が高温であったにも関わらずClO濃度が高いデータについて、観測された空気塊の気温履歴を調べたところ、これらのデータには観測される3日前から1日前にかけて、平均して195 Kを下回る低温を連続して経験していたことがわかった。 さらに、ACE-FTSのL2プロダクトのV3.0データを新たに取得し、SMILESと同期観測しているデータを抽出して、2009/2010年の北極の塩素化合物の濃度変動の時系列とそれらをすべて足し合わせた「総塩素量」の時系列を詳細に解析した。一酸化二窒素から推量される「総塩素量」と塩素化合物の観測データに基づいた「総塩素量」との差から、SMILESやACE-FTSで観測されていないオゾン破壊に活性な塩素化合物の量を推定することを試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H25年度は、H24年度のSMILESのL2r濃度データの解析を継続して実施し、各物質の濃度と2009/2010年の冬春季の北極域の気温場を比較する予定であった。 SMILESのL2r濃度データを担当している情報通信研究機構やL2rデータの解析を行っている国立環境研究所の研究者と緊密に連携して研究を進めた結果、H25年度に実施予定であった研究内容を概ね遂行することができた。本研究のデータ解析を行っている大学院生も交え、共同研究者間で解析結果の共有を図り、さらに定期的にface-to-faceで議論を行うようにしたことが、研究を進める上で大いに役立ったと考えている。 さらに、成層圏の研究を行っている海外の研究者とも共同研究を始められたことから、ACE-FTSという新たな衛星データを解析に加えることができ、本研究について新たな発展が期待できる見込みも得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策: H25年度は、極成層圏雲(PSCs)が発生している可能性が高い低温域で塩素活性が起こっている空気塊、低温域にもかかわらず塩素活性が起こっていない空気塊など、SMILESのデータ解析から見えてきた特徴的な濃度分布に着目して、空気塊の温度履歴を調べるなどのより詳細な解析を実施した。H24年度はSMILESデータの解析、H25年度はSMILESデータとACE-FTSデータを組み合わせた解析を進めたが、次年度以降はこれらの観測データの解析から得られた結論をサポートする数値モデルの援用なども視野に入れて、積極的に国内外の大学・研究機関の研究者との連携を図っていく予定である。 次年度の研究費の使用計画: H26年度は、これまでに得られた研究成果の誌上発表を行い、さらに本研究の発展につながる情報の収集に積極的に努めていきたいと考える。新たなデータの解析を行えるコンピュータ環境の整備(人的資源も含む)に投資を行い、膨大な衛星データの解析をさらに進める予定である。国内のSMILESデータを解析している研究者、成層圏の大気科学(力学・化学)の研究者と議論を行うため、学会等の研究集会にも積極的に参加する。
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