2013 Fiscal Year Research-status Report
第四紀浮游性有孔虫形態に記録された高緯度海洋表層の生物圏変動
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24740346
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Research Institution | Akita University |
Principal Investigator |
山崎 誠 秋田大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40344650)
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Keywords | 環境変動 / 第四紀 / 浮遊性有孔虫 / 北大西洋 / 北西太平洋 |
Research Abstract |
浮遊性有孔虫の寒冷系種Neogloboquadrina pachydermaの殻サイズは,第四紀を通して顕著に変化している.本研究課題では,大洋間の殻サイズの比較のみならず,殻の詳細な形態の解析,および殻に含まれる酸素同位体比の分析から過去の海洋表層の環境変遷との関連について考察を進めている.南大西洋のODP Site 1091コア(南緯47度・東経5度)に認められる2種の浮遊性有孔虫の安定酸素同位体分析から,約0.9 Maに一時的に亜南極前線が大きく南下している可能性が指摘された.これは,更新世中頃に凡世界的に,より寒冷な氷期が認められるのに先だって,一時的に南大西洋が温暖な傾向にあったことを示唆している.このような古海洋環境に対して,Site 1091コアのN. pachydermaの殻サイズ計測を実施したところ,0.8~1.4 Maで際だった変化は認められない.これは,前年度に報告をおこなった北大西洋のIODP Site U1304コア(北緯53.05度・西経33.52度)に見出された,同種のサイズの大きい個体が約1.2 Ma以降に産するという傾向とは明らかに異なっており,大西洋の南北間で同種の殻サイズについて対立関係が認められることを意味している.この結果を受けて,殻形態のより詳細な時間変化を明らかにするために,堆積物中での殻の保存が極めて良好な北大西洋のSite U1304コアについて精査することし,同試料について殻形態の追加測定を実施した.現在までのところ,殻形態の中でも,殻のサイズ(特に長径)が最も変化に富む傾向にあることが明らかになった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
現在までに,南大西洋のSite 1091コア認められる浮遊性有孔虫の群集解析および2種の同位体分析結果のとりまとめ,および殻サイズの分析をおこなった.その結果,炭酸塩殻の溶解が著しい層準が認められるために,試料を追加分析しても,時間分解能を高めることが難しいと判断された.そこで,今年度は試料の保存が極めて良好な北大西洋のSite U1304コアについて精査することとした.これまでに得られた計測資料のとりまとめに加え,殻形態の統計解析をおこなう場合に分析個体数の不足が懸念される層準について追加で拾い出しを実施した(学生アルバイトを雇用).それらの試料(約3500個体)をフランス国アンジェ大学Ralf Schiebel教授のもとで追加分析した.また,アンジェ大学滞在時に,同教授とSite U1304試料の分析結果について議論をおこない,現在までに得られている結果について論文にとりまとめることとした.形態測定の資料については,得られた殻の基本データを円形度,箱形比などで形態の特徴を抽出後,統計解析をおこなった.予察的な分析結果からは,殻サイズ(特に長径)が,各種殻形態の中で最も変化に富む形質であることが明らかとなった.これらの結果に基づいて,引き続き資料の解析をおこない,論文の執筆を進めている.現在,また,最終的な目的である北大西洋との比較にむけて,三陸沖ODP Site 1151コアの調査層準を決定した.
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Strategy for Future Research Activity |
浮遊性有孔虫化石の種構成と形態の検討を行い,観察・計測事例を蓄積する.Site 1151試料のリクエストをおこない,浮遊性有孔虫群集解析および形態解析のために試料の水洗および分割をおこなう.その作業に大学院生のアルバイトを雇用する.また,北大西洋IODP Site U1304試料より得られた分析結果については学術雑誌への投稿をおこなう.論文とりまとめの段階で新たに得られた知見については別途学会にて報告をおこなう.なお,浮遊性有孔虫殻の形態解析については,近年の既存の報告によれば殻の長径を用いる方法と各種形質から抽出した値を元に形態指標(円形度,箱形比など)の主成分分析をおこなう方法がとられている.Site U1304の資料のとりまとめに際しては,両手法を比較検討し,本研究に適切な手法の選択に努める. 西太平洋Site 1151の分析については,北大西洋Site U1304のとりまとめた上でとりかかることとする.この段階ではSite U1304でおこなった分析手法をSite 1151に適用することで速やかに検討資料の作成をおこなう.特に殻形態については,大洋間の変化の時期に注目し,大西洋と太平洋で殻形態に関して明瞭な先行・遅延の関係が認められるのか,認められるのであればどちらが先行するのか,その原因は何か,また,もし殻形態の時間変化が類似しているならば,なぜか.また,調査の時間間隔を通して異なる殻形態は認められるのか,など,想定される問題点を細かく設定したうえで検討をすすめる.得られた成果については適宜学会にて報告をおこなう.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
南大西洋ODP Site 1091コアの詳細な分析うけて,Site U1304コア中の浮遊性有孔虫化石の石灰質殻の保存が極めて良好であることから,同コアの殻形態およびその時間変化を検討することが重要であると判断された.そのため,当初予定していた西太平洋のODP Site 1151コアよりも,Site U1304のコアの詳細な分析を優先したため,コア試料の水洗と分割のための学生アルバイト費用に変更が生じたためである. 次年度使用額が生じた理由は,本年度の分析の優先度に若干の変更が生じたためである.したがって,その差額分は昨年度から本年度に実施予定を変更したSite 1151試料の水洗と分割のための学生アルバイトの雇用に充てる.また,形態解析のためのデジタル画像の取得のために,光の角度をフレキシブルに変化させることが可能な光源(LEDライト)を購入する.その他,試料の準備に必要な消耗品類を適宜購入する.研究の途上で得られた知見について,適宜学会にて報告するため,出張旅費を必要とする.また,論文が受理された場合は,別刷の印刷費用を必要とする.
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