2013 Fiscal Year Research-status Report
カンブリア紀礁生態系から探る温室期の海洋生態系と地球表層環境の変遷
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24740350
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Research Institution | Naruto University of Education |
Principal Investigator |
足立 奈津子 鳴門教育大学, 大学院学校教育研究科, 准教授 (40608759)
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Keywords | カンブリア紀 / 生物礁 / 微生物礁 / 古海洋環境 |
Research Abstract |
本年度は,南中国広西省や北中国山東省において,野外地質調査をおこなった.南中国湖北省や湖南省での研究成果も含め,以下のことが明らかになった.(1) 南中国では,海綿動物古杯類を産する礁は,カンブリア紀前期Atdabanianに初めて出現し,その後,同紀前期early Toyonianの終わりまでに消滅した.古杯類消滅直前の天河板層 (lower Toyonian) の礁を検討し,それらが,古杯類と共にEpiphyton, Renalcis, Botomaellaなどの石灰質微生物類によって形成されたことを明らかにした.また,古杯類消滅直後に形成された清虚洞層 (upper Toyonian-lower Amgan) には,Epiphyton, Kordephytonなどの石灰質微生物類のみから構成される大規模礁が発達する.南中国では,Toyonianの間に「古杯類礁」から「微生物類礁」への礁の転換が生じた.その転換は,カンブリア紀前期の終わりに生じた後生動物の多様性の減少,礁の減少,海退事変と関係していることが明らかになった.(2) 北中国山東省には,古杯類消滅後の微生物類礁の発達の証拠が極めてよく保存されている.特に,莱蕪地域には,Epiphytonによって形成された巨大なドーム状スロンボライトが顕著である.興味深いことに,本地域では,それら微生物類礁とともに,石海綿を産する礁が産出する.検討した石海綿を産する礁は,オルドビス紀前期に世界的に大繁栄するイシ海綿-微生物類礁の先駆的な存在である.当該礁の構築様式や分布様式は,古杯類消滅後の造礁性後生動物と海洋環境の回復過程を明らかにするための重要な情報を提供している. 以上の成果は,日本古生物学会や地質学会にて発表をおこなうとともに,国際学術誌上で発表した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
以下の手順で研究を進めることを当初予定していた.(1) 下部から上部カンブリア系生物礁を対象とした野外地質調査.(2) 三葉虫やコノドントに基づいた,調査地域の年代枠組みの確立.(3) 礁古生態の特性とその変遷様式の検討.(4) 海水準変動などの堆積環境の変化の検討.(5) 地球化学分析による地球表層環境の変動の検討.(1) から (5) のデータを統合し,「生物相の進化 (微生物優先礁の特性変化, 生物相の絶滅・回復・発達)」と「環境変動」との関係を検討する.最終的に,カンブリア紀 (温室期) での『海洋生態系の発展』と『地球表層環境変化』との相互変遷モデルを提示することを目指している. プロジェクト1年目と2年目で,南中国と北中国の各地で野外地質調査をおこない,保存良好な試料と野外での詳細なデータを得ることができた.南中国では,下部カンブリア系生物礁を重点的に研究した.その結果,古杯類礁から微生物類礁への転換がカンブリア紀前期 (Toyonian) に生じたことが今回初めて明らかとなった.また,地球化学分析データ (特に,炭素同位体変動) なども参照し,古杯類礁の消滅を導いた要因 (海退事変や生物多様性の減少,生物礁の減少の影響など) も明らかになった.一方,北中国では,中部から上部カンブリア系生物礁を重点的に研究した.そこでは,微生物類礁の発達の過程と後生動物 (石海綿) の出現や礁の回復過程を明らかにするデータを得た.北中国のカンブリア系礁に関しては,さらに研究を進め,後生動物の出現と礁の変遷,その背後の環境変化を明らかにする必要がある. 最終的なデータの統合と相互変遷モデルを提示するために不可欠な情報がこれまでに順調に蓄積されている.
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画におおむね従って,研究を推進する予定である. プロジェクト3年目は,特に,北中国の中~上部カンブリア系生物礁のデータの補完をおこなう.山東省長清地域の張夏層 (中部カンブリア系) と炒米店層 (上部カンブリア系) を対象として,一週間程度の野外地質調査をおこなう.北中国と南中国の各地域では,カンブリア紀前期から後期の連続的な検討をおこなうことは困難であった.そのため,最下部カンブリア系から上部カンブリア系まで連続的に,保存良好な石灰岩を産出するモンゴルアルタイ地域での野外地質調査10日程度を追加する.北中国と南中国の中間的位置に位置した本地域のデータを加えることで,生物礁の時代変遷様式の古地理的影響も議論することが可能になる.野外では,特に,礁 (微生物類礁,海綿-微生物類礁など) の構成要素や造礁生物の産状に注目する.また,岩石研磨面用・薄片用・地球化学分析用試料などを採取する.室内では,前年度までに確立した手法に従って,岩石研磨面と大型薄片を作成し,礁の構築様式や各礁の特性,各地域の生物礁の変遷様式についてまとめる.堆積環境の変化に関するデータや地球化学分析データもあわせて,「生物相の進化 (微生物優先礁の特性変化, 生物相の絶滅・回復・発達)」と「環境変動」との関係を明らかにする.最終的に,カンブリア紀 (温室期) での『海洋生態系の発展』と『地球表層環境変化』との相互変遷モデルの提示を目指す.以上から得た研究成果は,日本古生物学会や地質学会,さらに,国際学術誌上で活発に発表する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品等の購入には不足であったため. 次年度,薄片作成用消耗品の購入に充てる予定である.
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