2012 Fiscal Year Research-status Report
第一原理電子状態計算法を用いた蛇紋岩鉱物の弾性特性
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24740357
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
土屋 旬 愛媛大学, 上級研究員センター, 講師 (00527608)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 含水鉱物 / 地球深部 / 沈み込み帯 / 弾性 / 異方性 / 第一原理電子状態計算 |
Research Abstract |
本研究は地球内部へ水を運搬する役割を担う蛇紋岩鉱物の構造、弾性特性を明らかにし、観測と照らし合わせることによりプレート沈み込み帯における水の存在度を決定することを目的とする。 今年度は、まず、蛇紋岩構成鉱物であり、蛇紋石の低温多形であるリザーダイトの構造と弾性特性、さらに振動特性の圧力依存性について第一原理電子状態計算法を用いて決定した。リザーダイトは蛇紋岩鉱物のなかで最も基本的な結晶構造を持ち、その振る舞いは他の含水層状ケイ酸塩の圧力下における振る舞いと比較・参照するうえで重要である。 本研究の結果、リザーダイトにおいて約10万気圧付近で弾性異常が見られ、同時に振動数の急激な上昇が見られた。この異常はリザーダイト中の6員環を成すSiO4四面体間の結合角が圧縮に伴い急激に変化することに起因する。これまでに報告されている実験においては、ラマン散乱測定などで本研究と同様の振動数の急激な上昇が約6万気圧において見られるため、実際に弾性異常が起こるのは6万気圧である可能性がある。また同様の加圧に伴う振動数増加が他の蛇紋岩鉱物においても報告されているため、今後これらの鉱物でも同じメカニズムで構造や弾性変化が引き起こされているか注意する必要がある。 上記の内容について学会発表を行い、論文を作成し、現在国際誌に投稿中である。またこの蛇紋石低温多形(リザーダイト)の結果は、地球内部においてより重要となる高温多型(アンチゴライト)の弾性と比較するために用いられる。現在、緑泥石(クローライト)と滑石(タルク)の高圧下における構造と弾性特性について計算が終了し、今後結果を発表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
蛇紋石の高温多型であるアンチゴライト以外の蛇紋岩鉱物は単位格子中に含まれる原子数が100原子以下であり、扱う計算規模がそれほど大きくないので比較的容易に計算できるため、ほぼ基礎となるデータ(構造・状態方程式・弾性定数)は得られた。また300原子程度を含むアンチゴライトについても順当に結果が得られている。また蛇紋石低温多形の構造と弾性については国際誌へ論文投稿がすでに一件行えたため、おおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の土台となる蛇紋岩鉱物の弾性定数はほぼ決定できたので、今後はこの弾性定数と選択配向した多結晶体の方位情報を用いて解析プログラム(PEA: Polycrystalline Elastic Analyzer)を実行し、多結晶弾性特性を決定する。さらに、各地の沈み込み帯における地震波観測結果との比較を行う。地震波速度、P波/S波の速度比、S波偏向異方性や方位異方性を見積り、包括的に水の存在度を推定する予定である。また同時に、個々の含水鉱物についての構造と弾性特性を詳細に解析し、論文発表を行うことが重要であると考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は次の二つに重点的に予算を使用したい。 1.計算結果の解析 単結晶弾性定数と結晶の選択配向の情報を組み合わせることにより多結晶の弾性特性を決定する。このために、解析用コンピューターを購入予定である。 2.研究発表と論文発表 最終年度であるため、研究のまとめと発表に重点を置くため、旅費(アジアオセアニア地球物理学会年会・アメリカ地球物理学連合年会)と論文投稿料が必要である。
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Research Products
(4 results)