2012 Fiscal Year Research-status Report
高分解能電子運動量分光による電子波動関数の核配置依存性
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24750004
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
山崎 優一 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (00533465)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 原子・分子物理 / 化学物理 / 電子線散乱 / 波動関数 / 分子軌道 |
Research Abstract |
本研究では、孤立分子について、原子核配置に依存した電子波動関数の観測を試み、原子核運動と電子運動の相関を解明することを目指す。これにより、分子振動や、結合の生成・開裂を伴う化学反応一般における原子核配置の動的変化を、より本質的な電子運動の変化という観点から理解する。この目的のため、高分解能電子運動量分光(高分解能EMS)装置を開発し、EMSで生成するイオンの振動準位を分離して電子運動量分布を観測することで、核間距離と分子軌道形状との相関を明らかにする。 EMSは標的分子の高速電子衝撃イオン化で生成する非弾性散乱電子と電離電子を同時計測する実験手法であり、反応前後のエネルギー保存則からイオン化エネルギーを求めてイオン化した分子軌道を特定する。したがって、分子軌道を分離して観測するために必要なイオン化エネルギーの分解能は、入射電子のエネルギー幅および散乱二電子に対する電子アナライザーの分解能によって決まる。そこで、平成24年度は入射電子のエネルギー幅の改善を中心に研究を進め、静電型モノクロメーターを使用して、従来用いられている熱電子銃のエネルギー単色化を試みた。既存の装置にモノクロメーターを導入するために、直流電源やケーブル類を用意し、電源および真空槽内外の配線などの整備を行った。モノクロメーターのアライメントや各電極に印加する電圧の調整等を行いながら、実験条件を最適化し、入射エネルギー1.2 keVに対してエネルギー幅が0.25±0.14 eVの電子線の発生に成功した。これは従来の熱電子銃のエネルギー幅(1.1 eV)と比べると、約1/4の値である。一方、本電子線の強度は約40 nAと、EMS実験に適用可能な強度であることが分かり、高分解能EMS実験の実現へ向けた見通しを立てるに至った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、孤立分子中での原子核運動と電子運動の相関を解明するために、高分解能電子運動量分光(EMS)装置を開発し、イオンの振動状態を分離したEMSの実現を目指す。平成24年度は、エネルギー分解能の支配因子の一つである入射電子エネルギーの改善を中心に研究を進め、当初の目的通りの改善が認められた。研究実施計画の通り、平成25年度に、電子エネルギー分析器のエネルギー分解能の向上を図ることで、高分解能EMS実験の実現へ向けた見通しを立てることができたため、研究はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
高分解能電子運動量分光(EMS)の実現のため、イオン化エネルギー分解能のもう一つの支配因子である、電子エネルギー分析器のエネルギー分解能の改善を図る。平成24年度の予備実験の結果から、電子エネルギー分析器のスリット幅を既存(0.5 mm)の1/5とし、かつ、600 eVの散乱電子を減速比1/3で減速させることで、電子エネルギー分析器について0.1 eVのエネルギー分解能を達成できることが分かった。これと、平成24年度に導入したモノクロメーターとを組み合わせれば、エネルギー分解能が0.3 eVの高分解能EMSの実現が可能である見通しを立てるに至った。そこで、平成25年度は、エネルギー分析器の入口スリット幅および減速比の調整を行い、モノクロメーターを組み合わせて初期の性能を満足する高分解能EMS装置を開発する。 減速やスリット幅の調整を行うことにより、信号強度が著しく低下する場合には、モノクロメーターの条件を変えるなどして、電子線強度の向上を図り、解決を試みる。また、電子エネルギー分析器の分解能の改善が期待通りに認められない場合には、エネルギー分析器直後に集束レンズを追加するなどして、分解能の向上を図る。Heをサンプルとしてイオン化エネルギースペクトルを測定し、イオンの振動状態の分離が可能な分解能が得られることを確認したら、単純な二原子分子の高分解能EMS実験を実施する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は、入射電子エネルギー幅の改善を確実に実施するため、減速レンズ系の製作は次年度に持ち越すこととした。したがって平成25年度は、このための研究費と平成25年度の研究費を合わせて、減速レンズ系およびスリットの製作を行う。また、研究を遂行する上で考え得る問題に対処するために、モノクロメーターや電子エネルギー分析器に改良を加える場合には研究費を一部使用する。そのほか、振動状態分解電子運動量分光実験の試料や成果報告のために研究費を使用する。
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Research Products
(21 results)