2013 Fiscal Year Research-status Report
有機薄膜太陽電池のナノスケール・モルフォロジーによる高効率化
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24750012
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
藤井 幹也 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (20582688)
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Keywords | 電子状態計算 / 電子移動反応 / 有機薄膜太陽電池 / 電荷再結合 |
Research Abstract |
薄膜太陽電池(Organic Solar Cells: OSCs)では有機半導体界面において励起子が解離することで電子・正孔の電荷対が生成される.本研究では電荷対生成の初期過程である正孔輸送分子(ドナー)から電子輸送分子(アクセプター)への電荷移動反応および生成した電荷対の再結合過程を解析している. 本年度はアクセプター分子PCBMとドナー分子P3HT,MEH-PPVもしくはDPPからなるPCBM/P3HT系,PCBM/MEH-PPV系,PCBM/DPP系の解析を行い.また,アクセプター分子として単層カーボンナノチューブCNTとドナー分子P3HTからなるCNT/P3HT系を解析した. PCBM/P3HT系では,界面の安定構造を同定した後,電荷移動状態の同定を行った.さらに電荷移動によっておきる構造緩和をも同定し,電荷移動によっておきる構造緩和によって再結合過程の速度定数が小さくなることを明らかにした.さらに,ドナー分子P3HTの共役長を伸ばすことでさらに電荷再結合過程の速度定数が小さくなることを明らかにした.さらに,PCBM/MEH-PPV系でも同様の傾向を確認し,今回明らかにした性質が系固有のものでないことを確認した. CNT/P3HT系では,P3HTがCNTに巻き付いた界面を同定し,P3HTの電子状態が巻き付きによりどの程度安定化するか確認した.本系については,巻き付いたP3HTのHOMOが安定化すること電荷再結合が防がれるという機構が既往研究によって提案されていた.しかし,本研究の結果ではP3HTのHOMOは安定化せず,従って他の機構によって電荷再結合が防がれている可能性が見えてきた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
計画時の研究の目的では電子供与体からなる有機半導体における「励起子拡散長の伸長」と,界面における「電荷再結合と励起子緩和の防止」を掲げ,「励起子拡散長の伸長」を行った後に「電荷再結合と励起子緩和の防止」を行う予定であったが,実際には「電荷再結合と励起子緩和の防止」,特に電荷再結合の防止について研究を進めている.これは,電荷再結合防止の方が有機薄膜太陽電池の効率を上昇するのに重要だと考えたためである. そして,電荷再結合防止について,現在までの達成度としては,電荷再結合の生じやすさの指標となる物理量の同定および再結合過程の機構解明が判明してきている.一方,現在の有機薄膜太陽電池の研究においては多くの新規物質が提案されており反応機構についても異なった提案がされているのが現状である.そこで,本研究では,これまであきらかにしてきた物理指標と機構解明がある特定の有機半導体材料分子のみに有効なものでなく,多くの有機半導体材料分子に有効な物質普遍性を備えていることを確認するため計画時とは異なるが複数の材料分子に対して解析を行った.特に,DPP系については複数の誘導体の検討を行っており系統的に解析している.そのため,対象とする系を増やしたことでより確度の高い議論が可能になっていると考えられるが,研究項目数としては研究計画時のものよりも少なくなっている.以上の理由から『やや遅れている』と自己点検した.
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は研究対象としてきた系をより大規模化して,より実在系の計算と解析を行う.特に,P3HT/PCBM系について,P3HTの共役長を変化させることで,分子軌道の局在度が変化し,電荷再結合の速度が変わることが解明できたので,今年度後半からアクセプター分子PCBMの凝集度が電荷再結合におよぼす影響の解析を始めている.この解析においても,PCBMの凝集度によって電荷再結合の速度が大きく変わることが判明してきている.ただ,この計算ではPCBMの凝集状態にある程度恣意的な構造を用いているため,よりきちんとPCBMの凝集状態を同定する必要がある.そのため,分子動力学計算を用いてP3HTに対するPCBMの凝集過程のシミュレーションを行い,そこで得た構造をもとにPCBMの凝集度が電荷再結合に及ぼす影響を解明する. 次にCNT/P3HT系について,本研究では既往研究で提案された再結合機構では説明できない結果を得ている.詳しく述べると,既往の研究では界面におけるドナー分子のHOMOレベルの安定化により再結合過程が抑止されていると提案されたが,我々の結果では界面においても既往研究が想定したようなHOMOの安定化は起きない.そのため,既往研究とは異なる新しい機構を提案するべく,今年度後半にかけて仮説を考案した.その仮説とは,界面のみでなく,界面から数層における分子混合領域においてドナー分子とアクセプター分子の混合様式によって,正孔が運動可能な自由度数に制限が加わり,その自由度の制限によるエントロピー効果が再結合過程や励起子解離過程に重要なのではないか,というものである.そこで,今後は本仮説を実証するべく理論整備および計算プログラムの開発を行い,仮説の検証を行う予定である.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度研究室の引越があり,その引越において計算サーバー室の整備に遅れが生じたため,新規計算機の購入ができなかった. 本年度に購入できなかった計算機を次年度に購入する予定である.
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