2013 Fiscal Year Research-status Report
統計力学と量子化学を組み合わせた溶媒和理論によるイオン液体中の化学反応の理論研究
Project/Area Number |
24750015
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
横川 大輔 名古屋大学, 理学研究科(WPI), 准教授 (90624239)
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Keywords | グルコースの加水分解 / 量子化学計算 / 溶媒和 / 積分方程式 / イオン液体 |
Research Abstract |
本年度は、(a)研究を遂行する上で必要不可欠な溶媒和理論(RISM-SCF-SEDD法)の大幅な改良、(b)イオン液体中でのセロビオース、グルコースの加水分解反応の解析を進めた。以下ではこの2つについて詳しく説明する。 (a)申請者がこれまでに、量子化学計算と溶媒和理論(RISM法)を組み合わせたハイブリッド法(RISM-SCF-SEDD法)を開発し、様々な系に適用してきた。しかしながら、溶媒による安定化が非常に大きな系では、溶質における分極が過大に見積もられることにより、解が発散してしまうことが多々あった。本年度は、電子状態理論を詳細に検討し直すことで、この問題がRISM法と量子化学計算を組み合わす際に用いる電子密度フィッティングにあることを明らかにした。このフィッティングで満たすべき条件として、新たに電子密度の半正定値性を導入することで、非常に安定な電子密度フィッティング法を開発した(Chem. Phys. Lett., 587, 113 (2013))。この新たなフィッティング法をRISM-SCF-SEDD法と組み合わせることに成功した。 (b)理論開発とは別に、セロビオース、グルコースの加水分解反応の解析も同時に進めた。セロビオースの加水分解については結果をまとめ、学術誌(Chemical Physics Letters)に投稿した。グルコースの加水分解では、イオン液体のアニオン分子が、溶媒和で非常に重要な役割を果たすことを明らかにした。このような、溶質ーアニオン相互作用は、非常に広く用いられている連続誘電体モデルでは露に取り扱うことができないため、本手法を用いることが非常に重要であった。このRISM-SCF-SEDD法が、グルコースのように水素結合をしうるOH基を多く持つ分子に適用できることがわかったため、本研究室では、グルコース以外の計算も進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、当初の計画通り進まなかった点と、予想以上に進んだ点があった。以下では詳細について述べる。 予想通り進まなかった点としては、イオン液体中の反応解析にある。交付申請書では、本年度、セロビオースの加水分解において、イオン液体がもつ揺らぎによる影響を考慮する予定であった。しかし、当初予想した以上にグルコースの加水分解反応が複雑であることが判明し、イオン液体中だけでなく水溶液中での解析も追加で行ったために、揺らぎを考慮した計算を行うことができなかった。 予想以上に進んだ点は、理論開発、反応の解析、両方で挙げることができる。理論開発では、申請者がこれまでに開発してきた溶媒和理論(RISM-SCF-SEDD法)の大幅な改善に成功したことである。これにより、従来法よりも用いることができる量子化学計算、基底関数の種類を広げることができ、本研究課題はもちろん他の溶液内電子状態計算で多いに役立つと考えている。反応の解析では、イオン液体中のグルコースが溶液内のアニオンと強く相互作用していることを明らかにすることができた。このイオン液体中でのアニオンと水酸基を持つ分子の強い相互作用は実験的にも示唆されており非常に興味深い。 以上から、イオン液体中での計算において計画よりも進まなかった点があったが、理論開発と反応解析において当初の予想よりも進展したところが見られたことから、全体としてはおおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は、前年度までに計算した結果をまとめ、これらを学術誌で発表するための準備を進める。イオン液体中のセロビオースからグルコースへの加水分解に関する結果は、すでにChemical Physics Letter (in press)で発表しており、今後はグルコースからの加水分解についてまとめる予定である。 上記のまとめる作業と同時に、本研究課題を通して新たに開発した溶媒和理論についても、プログラムの作成をすすめ、本研究課題だけでなく今後の研究にも生かして行きたい。 反応の解析では、イオン液体中のアニオンが水酸基をもつ分子と強く相互作用することを明らかにした。この相互作用は本研究課題に限ったことではなく、イオン液体中やイオン強度の大きな水溶液中で広く見られると期待される。このような相互作用は、これまで多くの人に使われている連続誘電体モデルでは検討することが非常に困難である。そこで、我々の研究室では申請者が本研究課題で開発したRISM-SCF-SEDD法を用いて、様々な溶液内における電子状態を計算して行く予定である。また、前年度までに進めることができなかった、イオン液体が持つ構造揺らぎに関する検討も、新たに理論開発を進めた後に検討を行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究を進めるために計算機を2台購入した。当初は3台購入する予定であったが、円安の影響、予定したよりも出張回数が増えたために、2台しか購入できなかった。この台数変化と、それらに必要であったケーブル類を購入しなかったため、繰り越しが生じた。 次年度はこの繰越金額を、論文校正費として使用したいと考えている。
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Research Products
(12 results)
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[Journal Article] Identification of a New Interaction Mode between the Src Homology 2 Domain of C-terminal Src Kinase (Csk) and Csk-binding Protein/Phosphoprotein Associated with Glycosphingolipid Microdomains2013
Author(s)
H. Tanaka, K. Akagi, C. Oneyama, M. Tanaka, Y. Sasaki, T. Kanou, Y-H Lee, D. Yokogawa, M-W. Dobenecker, A. Nakagawa, M. Okada, and T. Ikegami
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Journal Title
J. Biol. Chem.
Volume: 288
Pages: 15240-15254
DOI
Peer Reviewed
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