2012 Fiscal Year Research-status Report
近赤外マルチプレックス逆ラマン分光計の開発と光導電機構の解明
Project/Area Number |
24750023
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
高屋 智久 学習院大学, 理学部, 助教 (70466796)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 時間分解分光 / 逆ラマン分光 / 近赤外分光 / 光電子移動 / 導電性高分子 |
Research Abstract |
本課題は,時間分解近赤外マルチプレックス逆ラマン分光計を開発し,光電子移動反応および光伝導における分子の動的構造を理解することを目的とする.当該目的を達成するため平成24年度に実施した研究内容は,時間分解近赤外マルチプレックス逆ラマン分光計の開発,および本分光計による9,9'-ビアントリルの光電子移動の観測,導電性高分子化合物であるポリ(3-ヘキシルチオフェン)(P3HT)の光励起状態の観測である. まず,時間分解近赤外マルチプレックス逆ラマン分光計を製作し,完成させた.手始めに本装置をβ-カロテンの励起状態に適用したところ,明瞭な時間分解逆ラマンスペクトルが得られた.この時間分解スペクトルから,分光計の時間分解能が300 fs以下,波数分解能が5 cm-1と見積もられた. つづいて,開発した分光計を用いて9,9'-ビアントリルの光電子移動の観測,導電性高分子化合物であるP3HTの光励起状態の観測を試みたが,当初選択したラマンポンプ光の波長(1740 nm)では両者とも逆ラマン信号を与えなかった.そこで,ラマンポンプ光の波長を1190 nmに設定したところ,P3HTの光励起状態から強い逆ラマンバンドが観測された.得られた逆ラマンバンドの中で,1388 cm-1に現れるバンドの強度・位置・幅が時間とともに大きく変化することが分かった.この結果は,1388 cm-1のバンドが励起状態における共役鎖長および電荷状態を鋭敏に反映するマーカーバンドであることを示している.すなわち,ポリチオフェンの光伝導を評価するための重要な手がかりが,時間分解近赤外マルチプレックス逆ラマン分光計の開発・応用によって得られた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題の研究目的は3項目からなる.すなわち,(1)時間分解近赤外マルチプレックス逆ラマン分光計を開発し,(2)光電子移動反応に伴う分子構造の動的変化を観測して電荷移動機構を明らかにし,(3)有機光導電性化合物の光伝導の機構を理解することである. 当該目的に沿って平成24年度の研究進度を点検する.まず,時間分解近赤外マルチプレックス逆ラマン分光計が完成し,分光計の時間分解能が300 fs以下,波数分解能が5 cm-1と見積もられた.本課題で用いている光源・分光器・検出器の性能を考慮すると,到達可能な最良の時間分解能および波数分解能を実現できた.したがって,目的(1)は達成された. 目的(2)および(3)については,当初に予定していたラマンポンプ光の波長(1740 nm)では,9,9'-ビアントリルやポリチオフェンが逆ラマンスペクトルを与えないことが分かったため,ラマンポンプ光の波長を掃引して条件の最適化を行う必要が生じた.そのため,9,9'-ビアントリルのスペクトルは観測できておらず,目的(2)の達成度は当初予定に比べ大幅に遅れている.一方,有機光導電性化合物のひとつであるポリ(3-ヘキシルチオフェン)に対して最適なラマンポンプ光波長を見い出し,強い逆ラマンスペクトルを得た.また,ポリチオフェン類の光伝導を鋭敏に反映するマーカーバンドを見い出した.したがって,目的(3)については当初の予定以上に進展している. 以上の結果,研究の遂行順序が当初予定とは異なっているが,平成24年度の目的達成状況はおおむね順調であると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度終了時において,本研究の逆ラマン分光計はポリチオフェン類の測定に最適化されている.また,ポリ(3-ヘキシルチオフェン)の逆ラマンスペクトル測定から,1388 cm-1のバンドがポリチオフェン類の光伝導を理解するためのマーカーバンドであることが示唆された. 以上の成果に基づいて,平成25年度前半にさまざまなポリチオフェン類の時間分解近赤外逆ラマンスペクトルを測定し,光伝導の機構を理解する.側鎖を持たないポリチオフェン,およびアルキル側鎖やシクロアルキル側鎖を持つポリチオフェン類について,1388 cm-1付近に現れる逆ラマンバンドの強度・位置・幅の時間変化を観測し,共役鎖長について検討する.次に,光励起したポリチオフェン類が電子捕捉剤と反応する様子を時間分解逆ラマン分光計で観測する.1388 cm-1付近のバンドの解析から,ポリチオフェン類の電荷状態について知見を得る. 平成25年度後半には,9,9'-ビアントリル(BA)などの光電子移動反応を観測し,電荷移動に伴う分子構造の変化を調べる.BAの励起状態および電荷移動状態について,逆ラマン信号が強くなるようラマンポンプ光の波長を選択する.極性の異なる溶媒を用いて時間分解逆ラマンスペクトル測定を行い,溶媒の極性と分子の共役構造との関係・分離電荷の大きさとの関係を検討する.逆ラマン信号が得られない場合は,BA以外の分子の光電子移動反応を検討する. 最後に,PCDTBTなど,ポリチオフェンと異なる分子構造をもつ導電性高分子化合物の近赤外逆ラマンスペクトルを測定し,共役鎖長や電荷状態を示すマーカーバンドが見られるかを調べる. ポリチオフェン類などの光伝導における共役構造,光電子移動反応に伴う分子構造の変化について,逆ラマンスペクトルから得られた結果をまとめ,成果発表を行う.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度には物品費として1000千円,旅費として500千円,その他の費用として100千円を新たに受領する予定である.以下にその使用計画を記す. 物品費の使用について次のように計画している.まず,側鎖を導入したポリチオフェン化合物,およびPCDTBTなどポリチオフェンと異なる分子構造をもつ導電性高分子化合物を購入する.使用予定額は約30万円である.次に,ポリチオフェン類と電子捕捉剤との反応を観測するために,電子捕捉剤としてステンレスを侵す可能性のある試薬を用いる予定である.そこで,現在使用しているステンレス製試料循環ポンプに代わるポンプを購入する.使用予定額は約40万円である.最後に,分光計内で遅延時間の掃引に使用している自動ステージコントローラーを,実験実施場所である岩田研究室に返却する必要がある.これに伴い,返却後の代替品を購入する予定である.使用予定額は約30万円である. 旅費の使用予定は以下の通りである.次年度には国際会議での研究発表を3件(別府・神戸・大阪),および国内会議での研究発表を2件(京都・名古屋)予定している.そのための旅費に約25万円を使用する.また,インド・ヴァラナシで現地研究者との研究打ち合わせを行う予定であり,その旅費に約25万円を充てる. その他の費用(10万円)については,論文投稿料に充てる予定である.
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Research Products
(3 results)