2013 Fiscal Year Research-status Report
近赤外マルチプレックス逆ラマン分光計の開発と光導電機構の解明
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24750023
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
高屋 智久 学習院大学, 理学部, 助教 (70466796)
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Keywords | 時間分解分光 / 逆ラマン分光 / 近赤外分光 / 光電子移動 / 導電性高分子 |
Research Abstract |
本課題は,時間分解近赤外マルチプレックス逆ラマン分光計を開発し,光電子移動反応および光伝導における分子の動的構造を理解することを目的とする.平成25年度に実施した研究内容は,β-カロテンのS2およびS1励起状態の分子振動の振動数決定と緩和機構の解明,導電性高分子化合物であるポリ(3-アルキルチオフェン)の励起状態の逆ラマンスペクトル測定である. まず,β-カロテンのS2励起状態の近赤外誘導ラマンスペクトルを測定し,これまで観測がきわめて困難であったβ-カロテンのS2状態の振動基底状態について,3つの分子振動の振動数を決定した.次に,S2状態に4000 cm-1の余剰エネルギーを加えたところ,C=C伸縮振動の位置が余剰エネルギーのない場合に比べて低波数にシフトし,S2状態の寿命内に振動基底状態への緩和は完結しなかった.一方,S2状態からの内部転換により生成するS1状態のC=C伸縮振動バンドは,200 fsおよび1.2 psの時定数で2段階の高波数シフトを示した.この結果から,内部転換で生成した余剰エネルギーが主にC=C伸縮振動によって受け取られた後,200fsで他の振動に再分配されることが分かった. ポリ(3-ヘキシルチオフェン)のトルエン溶液について近赤外逆ラマンスペクトルを測定すると,1388 cm-1に強いバンドが現れ,その位置や幅が時間とともに大きく変化することが分かった.ポリマーのアルキル側鎖をヘキシル基からドデシル基に変えて測定を行ったが,バンドの位置および幅の時間変化は同じであった.この結果から,溶液中におけるチオフェン主鎖の構造および励起ダイナミクスは,十分に長いアルキル側鎖を持つ場合にはほぼ同じであることが分かった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本課題の研究目的は,(1) 時間分解近赤外マルチプレックス逆ラマン分光計の開発,(2) 光電子移動反応に伴う分子構造の動的変化の観測と電荷移動機構の解明,(3) 有機光導電性化合物の光伝導機構の理解,の3点である.このうち,平成24年度に分光計開発を終了し,時間分解能240 fs,波数分解能5 cm-1を得たことから,目的(1)は既に達成された.目的(2)を達成するために9,9'-ビアントリルの過渡逆ラマンスペクトルの測定を試みたが,ラマンポンプ光の波長を1740 nmから1190 nmまで掃引してもスペクトルを得ることができなかった.9,9'-ビアントリルのLE状態およびCT状態の近赤外吸収は,本分光計での計測において強い共鳴効果を与えないことが分かったため,目的(2)の実験を終了することとなった. ポリチオフェン類の励起状態の逆ラマンスペクトル観測については,ラマンバンドが観測されること,および側鎖長を変えてもラマンバンドの時間変化が同じことまで確認できた.しかし,電子捕捉剤の影響を調べる実験を行うにあたり,試料循環ポンプが電子捕捉剤によって腐食されるおそれがあり,実験の遂行が困難であることが分かった.そのため計画を一部変更し,ポリチオフェン薄膜の時間分解逆ラマンスペクトルを測定し,薄膜と溶液での環境の違い,および電子捕捉剤の効果を調べることとした.薄膜のスペクトル測定については順調に進行しているものの,ポリチオフェン類の研究全体について成果の取りまとめが遅れることとなった.したがって,目的(3)の達成度は不十分である. 以上の結果,研究の目的の達成状況として遅れていると判断せざるを得ない.
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Strategy for Future Research Activity |
ポリチオフェン類の薄膜と溶液での励起状態動力学の違い,およびポリチオフェン類の励起状態動力学に対する電子捕捉剤の効果について速やかに研究成果をまとめ,報告する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度に溶液中のポリチオフェン類の励起状態動力学に対する電子捕捉剤の影響を検討し、国内学会で発表する予定であったが、電子捕捉剤に対して耐腐食性のある試料循環ポンプを購入できなかった。そのため計画を変更し、ポリチオフェン類の薄膜を作製して逆ラマン分光測定を行い、電子捕捉剤の効果、および薄膜と溶液との環境の違いを調べることとした。以上の理由により未使用額が生じた。 ポリチオフェン類の励起状態動力学に対する電子捕捉剤の効果、および薄膜と溶液との環境の違いについてまとめ、国内学会での発表を行うこととし、未使用額はその経費に充てる。
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Research Products
(5 results)