2012 Fiscal Year Research-status Report
複数の微視的反応経路を持つ励起酸素原子反応の動力学的研究
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24750028
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
小城 吉寛 独立行政法人理化学研究所, 分子反応ダイナミクス研究チーム, 基幹研究所研究員 (60339108)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 交差分子線 / 反応動力学 / 一重項酸素 / メチルラジカル |
Research Abstract |
励起酸素原子O(1D)とメタンの反応O(1D) + CH4 → OH + CH3は、豊富な反応動力学的テーマを含む多原子反応のモデル系である。申請者らは最近、この反応に微視的反応経路が複数存在し、「障壁のない」基底状態ポテンシャルエネルギー曲面(PES)と、「障壁のある」励起状態PESそれぞれで進行することを実験的に証明した。本課題では、励起状態PESの反応障壁高さ、衝突エネルギー(Ec)に依存した2生成物の並進、振動、回転状態とそれらの相関を測定し、反応ダイナミクスの全体像を明らかにすることを目的としている。 反応の観察には、交差分子線散乱イメージングという実験手法を用い、O(1D) + CH4 → OH + CH3反応の生成物であるCH3の散乱分布(微分断面積)を測定する。微分断面積には「挿入反応」「引き抜き反応」という2つの微視的経路に特有の分布が現れ、これらの反応仮定を区別することができる。本年度は特に、分子線速度をキャリアガス選択により変化させ、0.9~7 kcal/molという幅広いEc範囲での反応過程の観測に成功した。 結果、Ec低下と共に障壁乗り越え反応である引き抜き反応の寄与が明らかに低下していることがわかった。Ecに対する引き抜き成分比の変化から、成分比が0となるEcを外挿したところ、0.8 kcal/molという値が得られた。理論研究では、HernandらによるAb initio計算によりO(1D)+CH4反応の第一励起状態21AのPESの反応障壁が、1.2(CASPT2)または12(CASSCF)kcal/molと計算されている。計算方法により大きな違いがあるものの、前者は、本研究での実測結果に近い妥当な値を予測したものと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
O(1D) + CH4 → OH + CH3 反応について、計画当初は実際の実験にはCH4ではなく重水素体CD4を利用する予定であった。その主な理由は、生成物メチルの検出に共鳴多光子イオン化を用いるが、CH3よりもCD3の方が中間状態の寿命が長く検出に有利であるためである。しかしながら本年度の実験で試行した結果、CH3についても強度はCD3に比較して弱いながら積算時間を十分にとれば微分断面積測定が可能であることがわかった。同位体置換種だけではなく、より重要なオリジナル種での断面積測定を行ったことで、化学反応の動力学的理解を目指す本研究において、反応の同位体効果を議論するまでに至った。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の結果を受け、重要な衝突エネルギー条件で(1)REMPIスペクトル測定から生成CH3の量子状態分布を明らかにし、(2)様々な振動・回転状態にあるCH3の微分散乱断面積を測定する。その結果から、衝突エネルギーに依存した2生成物の並進、振動、回転状態とそれらの相関を明らかに出来る。そこから得られるPESに関する情報は実に豊富である。例えば、励起状態PES上の反応でO(1D)がメタンに近づくときに許容されるH-C軸上からのズレ、すなわちcone-of-acceptanceが大きいほど、リング構造は前方まで回りこみやすくなる。閾値よりわずかに高い衝突エネルギーと、十分に高い衝突エネルギーとでは、回り込みの度合いも異なるはずであり、これを量子状態に依存した形で評価する。こういったPESの情報を、2生成物の運動状態の相関まで体系的に観測する。 また、衝突エネルギー条件を高い精度で確定させるためのビーム特性評価に関する追加実験を行う。具体的には、特にO(1D)ビームについては、O(1D)そのものまたは同時に生成するO(3P)を直接イオン化してイメージング観測する。その結果、ビームの速度、速度幅、進行方向について直接評価することが可能となる。この方法を確立させる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は、予算交付申請時に購入予定であった高額なMCP検出器の購入を見送った。(1)所属研究室の他のプロジェクトが終了し、そのMCP検出器を本研究で利用することが可能となったこと、(2)消耗品のうち実験遂行に必須な数種類の希ガスの使用量が2年通じて想定よりも多く見込まれるためその分を充てることとしたこと、(3)レーザー光源の動作が不安定でありメンテナンス費用が生じる可能性が高いこと、がその理由である。次年度使用額は主に(2)(3)に充てる計画である。
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Research Products
(1 results)