2012 Fiscal Year Research-status Report
芳香族性と骨格柔軟性を鍵とした動的π共役系の機能発現
Project/Area Number |
24750038
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
齊藤 尚平 名古屋大学, 物質科学国際研究センター, 助教 (30580071)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | π共役系 / 骨格柔軟性 / 動的物性 / コンフォメーション変化 / 反転障壁 / 励起状態 / πスタッキング / 高圧化学 |
Research Abstract |
本計画の達成目標は、分子集合状態で構造変化するπ電子系骨格の構築、柔軟性と剛直性を備えた発光性ハイブリッドπ電子系の構築の2点である。研究実績として、まず、非常に柔軟な分子構造変化を示す骨格として、環状チアゾール4量体とその類縁体の合成法を確立した。この結果は一流国際化学雑誌であるAngew. Chem. Int. Ed.に掲載されるとともに、国際化学雑誌Synfactsにハイライトされた。この分子骨格は、室温で毎秒6400万回の反転挙動を繰り返していると見積もられ、6.8 kcal/mol という反転障壁の低さは他のπ電子系骨格には類を見ない。また、剛直部位と柔軟部位を合わせもつハイブリッドπ電子系として、アントラセンイミド2量体の合成法を確立した。その分子骨格の柔軟性と集積能を活かして、単成分の有機分子で初めて励起光を変えずにRGB発光を実現した。すなわち、ポリマーフィリム中では青色、溶液中では緑色、結晶中では赤色の発光を達成した。この現象は、1)光励起状態において柔軟π電子系部位が大胆なコンフォメーション変化を誘起すること、2)結晶中のおいてV字型非平面分子が「2つ折のπスタッキング」を構築し、剛直π電子系部位が分子間相互作用により長波長シフトした発光をしめすこと、の2点に起因している。この成果は、一流国際化学雑誌へ投稿中である。さらに、ホウ素をπ電子系の中央に組み込んだホウ素ドープナノグラフェン分子を開発し、ホウ素の配位数変化に伴ったサーモクロミズムなどの機能開拓を行った。この成果は、一流国際化学雑誌であるJ. Am. Chem. Soc.(Spotlightに選出)とAngew. Chem. Int. Ed.に立て続けに掲載され、Angew. Chem. Int. Ed.、Synfacts、Advances in Engineeringにハイライトされた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初初年度に計画していた、柔軟な分子構造変化を示す2つのπ電子骨格の合成を両方とも達成しただけでなく、ほとんど全ての工程において、金属触媒不要で高収率の反応条件を最適化しており、生成物は空気、水、光、熱に充分に安定であることから、材料としての応用が容易となった。これらの成果に関しては既にそれぞれ論文として報告している。さらに、両分子骨格ともにその柔軟性は過去に報告されたπ電子系の中で最も高く、分子集合状態においても構造変化が期待できる。また、非平面分子でありながら、結晶中において集積構造を示し、分子構造の変化に伴う芳香族性の変換を誘起できるため、大きな固体物性のスイッチングが可能である。分子がより動きやすい集合状態として、室温液晶への展開にも成功している。 さらに、新たな「動くπ電子系」の候補として、縮合多環式π電子系の中央にホウ素原子を組み込んだ、「ホウ素ドープナノグラフェン」を初めて有機化学的にボトムアップ合成することに成功し、溶液中における動的挙動と機能発現に関して論文として報告した。現在既に応用を見越してOFETのp型半導体やリチウムイオン電池の電極材料としてデバイス性能の向上を図っている。 以上、申請時点から新たに報告した実績として、一流国際化学雑誌であるAngew. Chem. Int. Ed. 4報、J. Am. Chem. Soc.1報を含む9報の論文を発表した。また、学術界、産業界を問わず幅広い分野で注目を浴び、多くの国際化学雑誌にハイライトされるに至った。当研究は日本化学会や科学技術振興機構からも高い評価を受け、第93春季年会のハイライト講演として全講演約6000件中から11件のハイライト講演、さきがけ「分子技術と新機能創出」領域の全応募総数359件中から10件の採択課題へと選出された。
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Strategy for Future Research Activity |
すでに溶液中において、環状チアゾール4量体およびアントラセンイミド2量体といったπ共役分子のコンフォメーションが大きく変化し、それに伴って分子物性が大胆に変化することを示した。今後は、これらの柔軟なπ電子骨格をπスタッキングした集合状態で扱い、特に高圧下での集積構造の変化を明らかにする。具体的な実験の進め方としては、理論計算から加圧下でのパッキング構造を予測するとともに、ダイアモンドアンビルセルを利用した高圧単結晶X線測定、放射光施設(SPring-8)における高圧粉末XRD測定、研究協力先における高圧蛍光測定、高圧IR測定、などを組み合わせて実施する。特に、高圧下において分子のコンフォメーションが変化している証拠を得るために、分子中央のシクロオクタテトラエン環が平面構造になると発現する反芳香族性の反磁性環電流を高圧下で探知することに挑戦する。平行して、共同研究により圧力をかけたときの電荷移動度の変化を評価する。また、上記π電子骨格を基盤として液晶性を付与した材料の開発や、チャネル型の空隙をもつネットワーク構造の構築を行い、液晶ー液体間の光誘起相転移や、高圧結晶中での新規ナノ材料の合成などの高度な機能発現を目指す。さらに、機械的なすり潰しと静水圧とで、結晶中のパッキング構造に及ぼす効果の違いを詳細に比較検討し、高圧化学における重要な知見として報告する。 以上の一連の研究を通し、次世代有機材料開発の鍵を握る分子設計指針として、動的で柔軟な骨格の導入、即ちπ電子系を「動かす」という概念を提唱する。この分子設計概念を核として、動的な物性を備えたオリジナルの分子群を開発する。さらに、分子骨格の柔軟性を凝集状態で制御することにより、斬新な機能性を発現するπ共役材料の創出を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
主に試薬購入費用、廃液処理費用、ガラス器具補充費用、不活性ガス購入費用などの消耗品に充てる。また、学会への参加、放射光施設での出張測定、協力研究先との研究ディスカッションなどを目的とした旅費として使用する。
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Research Products
(19 results)
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[Journal Article] Fluorescent Modular Boron Systems based on NNN- and ONO-Tridentate Ligands: Self-Assembly and Cell Imaging2013
Author(s)
C. Glotzbach, U. Kauscher, J. Voskuhl, N. S. Kehr, M. Stuart, R. Frohlich, H. Galla, B. J. Ravoo, K. Nagura, S. Saito, S. Yamaguchi, E.-U. Wurthwein
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Journal Title
The Journal of Organic Chemistry
Volume: 78
Pages: in press
DOI
Peer Reviewed
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[Presentation] 単一発光団によるRGB発光の実現2013
Author(s)
齊藤 尚平・YUAN, Chunxue・CAMACHO, Cristopher・KOWALCZYK, Tim・IRLE, Stephan・山口 茂弘
Organizer
日本化学会第93春期年会
Place of Presentation
立命館大学びわこ・くさつキャンパス
Year and Date
20130322-20130322
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