2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24750052
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
小谷 弘明 筑波大学, 数理物質系, 助教 (10610743)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 高原子価オキソ錯体 / クロム / 酸化還元電位 / 水素引き抜き反応 / 反応機構 |
Research Abstract |
本年度は、新規な高原子価クロムオキソ錯体の開発とその反応性について詳しく検討した。 まず、モノアニオン性5座配位ポリピリジル配位子(6-COO–-TPA)と塩化クロムを反応させることで前駆体錯体である単核クロム(III)錯体を合成した。このクロム(III)錯体をアセトニトリル中で酸化剤であるPhIOと反応させると、吸収スペクトル変化が観測され、ESI-TOF-MSとESR測定から、クロム(V)-オキソ錯体(1)の生成が確認された。またPhI18Oを用いた同位体ラベル実験において、1に由来する分子イオンピークのシフトを観測することにより、その生成を明らかにした。1の一電子還元電位(Ered, V vs SCE)は、一電子供与体であるRu(II)-トリスビピリジン錯体 (Eox = 1.24 V)との電子移動平衡の解析により1.23 Vと非常に高い事が明らかになった。 次に、錯体1を酸化剤とする種々のベンジルアルコール(BA)誘導体の酸化反応を行い、吸収スペクトル変化の速度論解析を行った。BA(Eox = 1.85 V)の場合、錯体1に由来する吸収帯の減衰から、その反応速度定数(kHAT)を決定した。ベンジル位を重水素化すると、速度論的同位体効果(KIE = 5.1)が観測された。その結果、酸化反応の律速段階はHATであることが示唆された。一方、基質が2,5-(MeO)2-BA (Eox = 1.20 V)の場合、反応中間体としてベンジルアルコールラジカルカチオンに特徴的な吸収帯が確認され、電子移動反応の進行が示唆された。この結果は、酸化反応の反応機構がBA誘導体の一電子酸化電位(Eox)に依存して、HATから電子移動へ切り替わる事を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実績概要に示した通り、中心金属にクロムを有する単核高原子価オキソ錯体の合成と反応評価について検討を行うことができた。計画通りに反応性の高いクロム(V)-オキソ錯体が合成できたことで、これまでにないオキソ種を用いた反応への展開が期待できる。ただ、あまりにも反応性が高く、室温では安定性に欠けるといった問題点も明らかとなった。そこで、触媒反応の開発についてはさらに触媒の改善(安定性・反応性の調整)が必要だと考えられる。来年度以降はこれらの問題点を解決していけるよう取り組む予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
クロム(V)-オキソ錯体の酸化還元電位は、その支持配位子のドナー性や負電荷の価数により制御されていると考えられる為、この予想に基づいて配位子を各種合成し、クロム(V)-オキソ錯体が生成出来るかの確認を行う。合成できたクロム(V)-オキソ錯体を用いた反応性の比較検討を行うことで、その反応性が主にどのようなパラメータに依存しているのかを明らかにしていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度の次年度使用額については、年度末に購入した物品・旅費として4月に支払うものである。
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Research Products
(2 results)