2012 Fiscal Year Research-status Report
非対称型金属錯体を用いた常圧下ゼロギャップ物質の開発
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24750118
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
久保 和也 北海道大学, 電子科学研究所, 助教 (90391937)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 分子性導体 / ゼロギャップ半導体 |
Research Abstract |
本研究の目的は、分子性導体を用いた常圧下におけるゼロギャップ物質の開発である。分子性導体の多くは有機分子(陽イオン)と陰イオンからなる結晶で、隣り合った有機分子に沿って1次元的、あるいは2次元的な伝導経路が形成される。有機分子と陰イオンの組み合わせや、同じ組成でも結晶構造が異なる場合があること、圧力による変形を受け易く有機分子間の距離や角度が変えられること等のバリエーションにより、超伝導、金属、絶縁体、磁気秩序、電荷秩序など多様な電子状態を実現する。様々ある分子性導体の中、現在最も注目されているのが田嶋らにより発見された、圧力下で実現する分子性導体-(BEDT-TTF)2I3を用いたゼロギャップ物質である。本研究では、合成化学的視点から、分子性導体を用いた常圧下でのゼロギャップ物質の実現を目指した。 ゼロギャップ物質では、ディラックコーンと呼ばれる、二つの円錐が頂点で接するようなバンド構造を持つ。低エネルギー側が荷電帯、高エネルギー側が伝導帯である。さらにフェルミエネルギーが、そのバンドの接点と同じになっている。金属に見られるフェルミ面や、半導体で形成されるバンドギャップではなく、ゼロギャップ物質では“フェルミ点”を形成することにより、質量ゼロのディラック-フェルミ粒子の発生が可能になる。ゼロギャップ物質の名の本となったこの“フェルミ点”を有するため、温度変化に依存しない電気抵抗など、特異な物性の発現が可能となる。合成化学的なアプローチでゼロギャップ物質の新規開発を行う場合、固体のバンド構造においてこのようなディラックコーンを形成する物質を開発すれば良いことがわかる。本研究では、非対称型金属錯体を用いて、常圧下ゼロギャップ物質作成の可能性を探り、これらの化合物を用いることにより常圧下ゼロギャップ物質を合成できる可能性を探った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、目的のゼロギャップ物質を構築する分子として非対称型金属錯体に着目した。これは、[(ppy)Au(C8H4S8)]2[PF6] (1) (ppy = C-protonated-2-phenylpyridine) がディラックコーン型のバンド構造に類似したバンド構造を有するからである。このようなディラックコーン型のバンド構造をもつ物質で、バンド幅やバンドギャップ、およびフェルミ準位の状態を、合成化学的手法を用いて自由に変化させることのできる化合物は、このような非対称型錯体以外には知られていない。ディラックコーン型のバンド構造を構築するためには、結晶(1)と類似の結晶構造を有する化合物について系統的に検討する必要がある。そこで本研究では、[(bpy)Pt(C8H4S8)][BF4] (2) (bpy = 2,2'-bipyridine) も結晶1と類似の結晶構造をもつことに着目した。拡張ヒュッケル法と強束縛モデルを用いた計算から得られたバンド構造から、結晶2が常圧では、伝導バンドと結合バンド間にギャップのある、バンド絶縁体であることが示唆された。これは、結晶2の電気抵抗の温度変化が半導体的挙動を示す事とも一致する。両バンド間にギャップが存在するものの、その形状はディラックコーン型のバンド型に類似しており、申請者が着目した非対称型金属錯体が常圧下ゼロギャップ物質実現に向けて好適な材料であることが分った。また、磁化率測定から、この化合物が室温から、50K付近にかけて、急激に磁化率が減少する特異な反強磁性挙動を示すことが分った。この挙動は、Bonner-Fisher modelやAlternating Antiferromagnetic Hesemberg Chain Modelに従わない、特異は反強磁性挙動であり、現在解析を進めているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
非対称型金属錯体が常圧下ゼロギャップ物質開発に好適な材料であることが分ったため、今後の方針としては、結晶1[(ppy)Au(C8H4S8)]2[PF6]および結晶2[(bpy)Pt(C8H4S8)][BF4]の対アニオンの変化によるバンドギャップ制御を試みる。バンド幅やバンドギャップは、結晶中における硫黄原子どうしの重なりによって決まる。よって、構造がほとんど同じであれば、対アニオンの大きさを変化させることによって、それらを微妙に制御することができるはずである。そこでまず、バンド幅やバンドギャップを系統的に制御する手法を確立することを狙い、様々な対アニオンを導入した非対称型金属錯体塩の合成法を検討する。得られた塩の、結晶構造解析、電気抵抗の温度変化、磁化率測定、バンド計算などを行い、常圧下ゼロギャップ物質開発に必要な基礎的な知見を系統的に収集することを目指す。さらに中性ラジカル[(ppy)Pt(C8H4S8)]を合成し、バンド幅やバンドギャップに対する構造的な影響を調べる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(19 results)
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[Journal Article] New BDH-TTP/[MIII(C5O5)3]3- (M = Fe, Ga) Isostructural Molecular Metals2013
Author(s)
Luca Pilia, Masahiro Yamashita, Elisa Sessini, Paola Deplano, Angela Serpe, Flavia Artizzu, Kazuya Kubo, Masafumi Niwa, Hiroshi Ito, Hisaaki Tanaka, Shin-ichi Kuroda, Jun ichi Yamada, et al.
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Journal Title
Inorg. Chem.
Volume: 52
Pages: 423-430
DOI
Peer Reviewed
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