2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24750119
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
加藤 恵一 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (80374742)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | スピン依存伝導 |
Research Abstract |
本年度は研究目標である導電性単分子磁石(単分子磁石をSMMと表記)の磁気抵抗効果を目指し研究を行った。申請者が既に合成している導電性SMM化合物[TbPc2]Clxは良質な単結晶を得るのが難しく、単結晶の質にばらつきがあることがわかった。そこで新たに、良質で各種物性測定に十分耐えうる導電性SMM化合物[TbPc2]I2の合成を実施した。申請者はTbPc2の安定な電気化学的酸化還元特性に注目し、電解酸化結晶法を用いて、ヨウ素をドープしながら結晶化を行なった。この手法を用いることでSMM挙動を示すTbPc2錯体の部分酸化が可能となり、伝導性を付加できる。X線単結晶構造解析の結果は、TbPc2がフタロシアニン面を平行にc軸方向に一次元的に配列し、ヨウ素も一次元的に並んでいることがわかった。単結晶をもちいた顕微ラマン測定の結果、その特徴的なスペクトルからヨウ素はI3-であることがわかった。従って、[TbPc2]I3(2/3)となることから、TbPc2の酸化数は+2/3で部分酸化状態であることがわかった。電気伝導度測定の結果は、電子構造を反映した半導体挙動を示した。静磁化率測定の結果、結晶構造に対応したc軸方向に一軸異方性の強い系であり、磁気ヒステリシスは17 Kまで観測されたことから、比較的高温でスピンが凍結されていることを観測した。また交流磁化率の結果、遅い磁化緩和現象を確認しSMMであることを明らかにした。さらに、中心希土類金属をLn (Y, Dy, Ho, Gd, Eu など) に変えることで、同じ結晶構造・酸化状態の一次元化合物[LnPc2]I2の合成も実施した。今後、導電性SMM化合物[TbPc2]I2の磁気抵抗を測定し、スピン依存伝度現象を詳細に調べる予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していた化合物では単結晶の質が悪く十分な測定ができないことが判明したが、目標を達成するのに十分な性質を示す新規導電性SMM化合物の合成に成功した。今後、導電性SMM化合物[TbPc2]I2の磁気抵抗を測定し、スピン依存伝度現象を詳細に調べる予定である。 また、平行して行った実験で以下の進展があった。π電子拡張したSMM化合物TbNcPc(Nc=ナフタロシアニン、Pc=フタロシアニン)の単層膜形成時の磁気的挙動を調べた。分子は真空中では自由に回転できるが、表面に吸着した場合に、反転する自由度が失われるため、NPc配位子を上に吸着した分子(Nc-up分子)、Pc配位子を上に吸着した分子(Pc-up分子)は表面キラル状態を形成し、2つの分子は異なった物性を持つ。それらは構造と電子・スピン構造の両方に影響し、膜においては均一な分布が破れ、一方の分子のみが凝縮することも予想される。孤立したNPc-up分子とPc-up分子のSTM像は、異なる配位子の形状からこれらを識別することが容易である。またTbPc2分子と同じく不対π電子が作る近藤状態が出現し、スペクトルには上に凸のピークとして観測された。被覆率が上昇すると、NPc-up分子だけで構成される1次元鎖が出現する。その場所では近藤ピークが凹のdipとして観察された。これはスピン間の相互作用であるRKKY相互作用によって形成されたと考える。さらに被覆率を上昇させ、単層膜を形成した場合、スピンは消滅する。このように、分子の設計により、スピンに多様性を持たせた膜の形成が可能であることを示した。 このように、分子の特徴を上手く利用することで成果をあげている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、導電性SMM化合物[TbPc2]I2の磁気抵抗を測定し、スピン依存伝度現象を詳細に調べる予定である。また、同じ結晶構造・酸化状態の一次元化合物[LnPc2]I2(Ln =Y, Dy, Ho, Gd, Eu など)の合成も実施したので、これらの化合物とスピン依存伝度現象を比較することで局在スピンと伝導電子の相関について研究を進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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