2012 Fiscal Year Research-status Report
光物性をスペーサー部で機能変換した両極性TTFーPBIハイブリッド分子の開発
Project/Area Number |
24750124
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
芦沢 実 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (80391845)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 機能性有機半導体 / 有機デバイス / 有機電界効果トランジスタ / 有機薄膜太陽電池 |
Research Abstract |
本年度は自己積層するパイ電子拡張型TTF骨格の持つホール輸送特性(ドナー部位)に加えて、優れた電子輸送特性(アクセプター部位)と蛍光発光特性を併せ持つペリレンビスイミド(PBI)骨格を連結した、新規な両極性且つ光物性を融合した分子の開発に取り組んだ。ターゲット分子を合成する過程で、パイ電子拡張型TTF骨格に対してイミド骨格を直接縮環させる新規の合成経路を開拓した。この合成経路を利用してパイ電子拡張型TTF骨格(ドナー部位)に強い電子吸引性骨格であるアルキル鎖を持つキノキサリンイミド骨格を縮環させた新規両極性分子の合成に成功した。この分子は合成上、アルキル鎖を導入する段階でその形状を自由に変えることができ、高い溶解性を持つとともに、トランジスタ特性を支配する分子配列を制御することが期待できる。また分子骨格の分子物性と光学特性を調べた結果、この分子骨格はドナー性のTTF骨格を持つにも関わらず低いHOMOレベルを持ち、狭いエネルギーギャップを持つことがわかった。この結果から本研究課題で新たに開発した分子骨格は、トランジスタ材料のみならず太陽電池の新規なn型半導体材料への展開が期待できる。有機素子の研究は実用化指向が強く、また比較的その歴史が浅いため、ふさわしい分子モデルと呼べるものが未だ確立されていない。実用的な高分子材料に比べて低分子材料は、設計と計算の両側面から分子設計にアプローチしやすい。本研究課題は塗布型低分子有機半導体に着目し、分子レベルで分子構造と電子構造を設計し、キャリア輸送と光機能の複合化を分子レベルで解析する。分子内での相互作用と電子構造を理解することからスタートし、ボトムアップ的に分子の構成部位を積層させて素子特性を考察するため、マクロな動作モデルを分子構造と分子物性に直接関係づけ、学術的に新規な分子モデルを構築することができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題におけるTTF部位は申請者が独自に合成に成功した骨格であり、この周囲を修飾した化合物は報告例がない。また本年度ターゲット分子の合成を試みる際に新規に開拓したキノキサリンイミド骨格縮環の合成経路は、他に報告がなくさらに合成過程の反応を室温でかつ温和な試薬を用いて行うことができ、環境に優しく汎用性の高いものである。合成した分子の電子構造の詳細について明らかにした結果、当初の予想とは異なり本来p型半導体であるTTF分子がn型半導体として機能する可能性を示すものである。申請者はこの両極性分子はアルキル鎖形状の違いに基づく分子配列制御ができ、応用する電子素子に適した集合体設計が可能であり、本研究課題の目的の達成に寄与すると考える。本研究課題で提案した自己積層するパイ電子拡張型TTF骨格の持つホール輸送特性(ドナー部位)に加えて、優れた電子輸送特性(アクセプター部位)と蛍光発光特性を併せ持つペリレンビスイミド(PBI)骨格を連結した分子と相互連携して研究を進めることができる。
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Strategy for Future Research Activity |
新規分子の合成は引き続き行うとともに、合成と分子物性の解明の進捗に合わせてトランジスタの作成と評価を行う。気相及び溶液から単結晶を作成し、X線単結晶構造解析を行う。また基盤上に塗布した薄膜の面間及び面内の構造解析を行う。測定には学内の共同利用装置を使用できる。これらの測定で得られた分子構造や分子配列の情報から、両極性輸送に寄与するトランスファー積分の値を見積もることができる。分子物性データと合わせて分子構造と集積構造を関連づけ、この段階で分子設計へフィードバックし分子構造の最適化を図る。 結晶性薄膜を作成する為に、溶媒、溶液濃度、スピンコーティング、ディップコーティングなどの条件を多方面から検討する。特に電子輸送の場合、シリコン基盤界面に存在するトラップ準位による特性の劣化が顕著であるため、基盤はSAM膜で直前処理したものを用いる。測定は大気下と、湿度や酸素などの影響を排除した本質的なデータを得るために真空下での測定を行う。薄膜のX線による面間及び面内の構造解析を行い、分子配列とトランジスタ特性との相関を求める。 さらに本年度、新規に開拓した合成法を用いて合成した分子についてもトランジスタや太陽電池への応用について検討する価値があり、従来の研究計画に加えて同様の評価を進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
有機合成における効率的なターゲット分子の合成を目指し、ハロゲン化アリールとアルキン類との薗頭クロスカップリング反応をマイクロウェーブ照射下で行うことを計画している。トランジスタ作成のための基盤などを消耗品費として申請する。また本研究課題で扱う分子から得られる単結晶が非常に小さく、通常使用している装置では測定不可能な場合に備えて、申請者は大学共同利用機関法人、自然科学研究機構、分子科学研究所における施設利用を申請し採択されており、この測定のために必要な旅費を申請する。トランジスタの受光と発光機能を調べる。光照射に関しては現有の白色光源と分光用のフィルタを購入し、トランジスタ特性評価装置に取り付けて使用する。白色光連続照射による光誘起電流の測定を行うとともに、断続的な照射によるオン電流とオフ電流のスイッチング特性を調べる。次にフォトディテクターを導入し、トランジスタの発光特性を調べる。
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