2012 Fiscal Year Research-status Report
分子性超伝導体における揺らぎの普遍性と動的組成比の解明
Project/Area Number |
24750127
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
山本 貴 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (20511017)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | 分子性超伝導体 / 振動分光 / 電荷揺らぎ / 動的組成比 / 普遍性 |
Research Abstract |
強固な二量体を組む分子性超伝導体における「磁気揺らぎ」に隠れた「電荷揺らぎ」を探索し、「動的組成比=電荷の動きやすい領域に相当する分子数nと、領域中の電荷数kの比:n/k」という観点から超伝導の共通性を見出す研究を、分子内振動の観測を通じて行っている。一連の物質群は、二量体の配列様式により3つの尺度「A:三角格子、B:(擬)正方格子、C:擬一次元」から類別できるので、類別に対応した研究計画を立てた。 初年度は、i) AC間の物質と、ii) AB間の物質を対象にした。i)では、単斜晶系EtMe3P[Pd(dmit)2]2塩のスペクトルの偏光依存性から、電荷揺らぎと誘起双極子の情報の分離に成功した。その結果、「三角格子に近い構造のため、電子間斥力と分子間結合の協奏作用が不十分になり、電荷は整列せず動的に揺らぎ、動的組成比がn/k=4/2になる」ことを突き止めた。動的組成比は、強固な二量体を組まない常圧超伝導体と一致した(投稿済)。 ii) AB間に属する非異方的X[Pd(dmit)2]2塩(X=Et2Me2Asなど)の測定をSPrig-8で行ったが、先方の液体ヘリウムの不備によりデータが得られなかった。一方、ii) に属するκ-型(BEDT-TTF)2Y塩(Y=Cu[N(CN)2]Iを除く4種)の実験は概ね完了した。二量体間の電子間斥力と分子間結合の異方性が動的組成比に影響し、これが超伝導と関連することを見出した。一部成果は国際会議で発表した。 計画を前倒しして、iii) BC間に属する圧力下超伝導体β-(BEDT-TTF)2(ReO4)塩の測定も行った。常圧低温では強誘電の電荷整列であり、動的組成比は(n/k=1/1)なので、これも、強固な二量体を組まない圧力下超伝導体と共通している(学会発表済)。 動的組成比は普遍性のある尺度であることが分かりつつある。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
i) AC間にある物質の研究に関しては、電荷揺らぎの観測だけでなく、電子間斥力・分子間結合・分子軌道準位という、電荷揺らぎに寄与する要因の特定まで行なうことができた。また、動的組成比の普遍性に関する重要な結果を得た。なお、スピン液体であるEtMe3Sb[Pd(dmit)2]2塩も詰めの実験は完了している。従って、予想以上の成果を得た。 一方、ii) AB間に属する物質の研究は当初の計画ほど進展していない。その最大の理由は、SPring-8における液体ヘリウムの不備により満足なデータが得られなかったためである(先方が原因であっても、制度上、料金を請求される)。同じくii)に属するκ-型(BEDT-TTF)2Y塩のY=Cu[N(CN)2]Iでは、結晶構造が極めて類似した2種の多型があることが判明した。両者の赤外・ラマンスペクトルが互いに異なる。今後、両者の伝導性や磁性の違いまで測定し、既報データとの違いを検討する必要がある。これは予想外の結果だが、動的組成比の比較実験ができるので、良い意味での誤算である。 計画を前倒しして、iii) BC間に属する圧力下超伝導体β-(BEDT-TTF)2(ReO4)塩の分光測定も行った。この実験はii)での遅れを取り戻すという意味合いと、本申請者が転出することによる時間的ロスを前もって回避するという意味合いも持つ。実験の結果、常圧低温における電荷量が判定できただけでなく、強誘電的な電荷配列になることまで分かった。分子性物質の中では、圧力印加で超伝導体になる強誘電物質は、以前に本申請者が報告したβ″-(BEDT-TTF)4M(CN)4・H2O塩(M=Pd, Pt)以来、2例目である。両者では、動的組成比まで一致した。これは期待以上の成果である。 i)で良い成果を得ており、ii)の遅れをiii)が補っているので、全体の進展具合は概ね順調である。
|
Strategy for Future Research Activity |
強固な二量体を組む分子性超伝導体を「A:三角格子、B:(擬)正方格子、C:擬一次元」という尺度から類別する方法に基づき、初年度では、i)「AC間」、ii)「AB間」の研究、次年度では、iii)「BC間」、iv)「三角形ABCの中」を研究する予定であった。しかし、初年度半ばから進行順序を変更したので、次年度は、ii)の完成と、iii)の追加実験、iv)の研究を行なう。各論を以下に記す。 ii) では、SPring-8にて非異方的X[Pd(dmit)2]2塩の赤外スペクトルの再実験を行う。SPring-8で実験するリスクを回避するため、分子科学研究所でも顕微ラマン測定を行う。κ-型(BEDT-TTF)2Y塩では、Y=Cu[N(CN)2]Iの追加実験を行なう。予備的な磁化率測定の結果、2種の多型の一方が新規超伝導体、もう一方は常伝導体の可能性がある。これを確定させるため、伝導度と磁化率の再現性を検討する。可能であれば低温構造解析も行なう。この結果と、前年度に得た他のκ-型(BEDT-TTF)2Y塩との結果を総合し、電荷の動的組成比に関する規則性を得る。 iii) では、圧力下超伝導体であるβ-(BEDT-TTF)2(ReO4)塩の論文作成を行う。次いで、常圧超伝導体であるβ-(BEDT-TTF)2Y塩(Y=IBr2, AuI2, I3)の1種類を中心に分光測定を行い、電荷の動的揺らぎを検証する。 vi) の研究でも(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Iを用いる。予備的な構造解析の結果、超伝導と考えられる試料のほうが、辺AB間ではなく三角形ABC内に属することが示唆されている。この試料の動的揺らぎと低温の分子間相互作用を、分光学的手法から検証する。 以上の研究を通じて、電荷揺らぎの様相や機構を明らかにし、動的組成比が超伝導を議論する有用な尺度であることを検証する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
24年度に未使用額が発生した。これはSPring-8での実験中断と申請者の転出により、研究順序を変更した結果、24年度に低予算の実験が集中したからである。25年度は、当初の目的を達成するため、未使用額と25年度予定額の総て[直接経費の合計約2500千円]を有効活用する。以下にその内容を記す。 愛媛大学では、κ-型(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Iの2種の多型の特徴を確定させる実験を行う。そのために、理学部のX線構造解析・SQUID磁束計・PPMS(秋導入)の機器使用料[概算値250千円]が発生する。機器使用に伴う消耗品(結晶マウントツール10個[同100千円]・サンプルパック3個[100千円]など)も購入予定である。多型の作り分け条件の検討、および、β-(BEDT-TTF)2Y塩の作成のため、電解ガラスセルと白金電極のセットを8セット[計400千円]と、結晶成長用インキュベーター[100千円]を購入する。結晶に電極端子を貼付する作業に使う顕微鏡モニター[100千円]、試薬類など消耗品[200千円]も予定している。 SPring-8では赤外スペクトルを測定する。非異方的X[Pd(dmit)2]2塩の再実験と、β-(BEDT-TTF)2Y塩(Y=IBr2, AuI2, I3)の実験を25年度後期に行う。消耗品代という名目の実質的使用料、液体ヘリウム代(未回収なので非常に高額)、および、旅費が発生する[450千円]。 分子科学研究所でのラマンスペクトル測定では、旅費・装置使用料・ヘリウム代は先方負担してくれる。しかし、本研究に適合した低温用部品が別途必要である[100千円]。 国際会議ISCOM2013(モントリオール7月下旬)での口頭発表が採択されたので、参加費と旅費が必要である[350千円]。国内の学会[150千円]や、論文の校正料も必要である[複数報200千円]。
|
Research Products
(11 results)