2013 Fiscal Year Research-status Report
分子性超伝導体における揺らぎの普遍性と動的組成比の解明
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24750127
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
山本 貴 愛媛大学, 理工学研究科, 准教授 (20511017)
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Keywords | 分子性導体 / 振動分光 / 電子相関 / 超伝導 / 分子軌道任意性 / 電荷整列 / スピン液体 |
Research Abstract |
2次元系の分子性超伝導の発現機構として「磁気揺らぎ」のなかに隠れた「電荷揺らぎ」を見出す研究を行なっている。この研究で重要な概念は「動的組成比」である。動的組成比とは、「電荷が移動しやすい領域(分子数) N」と「領域内の電荷数 E」の比N/Eである。この比は「電荷揺らぎの速さ」の決定要因であり、分光実験などから決定できる。この実験結果から、揺らぎの種類を超えた、より普遍的な超伝導メカニズムの導出、および、これに基づいた新規超伝導体の合成指針の創出を目指す。分子性伝導体を3つの尺度「A:三角格子、B:(擬)正方格子、C:擬一次元」から分類し、三角形ABCの頂点、それぞれの辺、および、三角形内部に相当する超伝導物質のN/Eに関する普遍性を探索する。 24年度からの懸案であった、頂点A近傍に相当する圧力下超伝導体のX[Pd(dmit)2]2 (X=EtMe3P単斜晶系)の研究成果を論文化した。この動的組成比は、見做しモット絶縁体のようなN/E=2ではなく、分子軌道準位の逆転効果によりN/E=4であることが判明した。今年度の研究により、スピン液体として注目されているX=EtMe3Sbも分子起動準位の逆転効果によって、N/E>2である可能性を見いだした。また、辺ABに位置する反強磁性体のX=EtMe3AsでもN/E≧4であるという結果を得た。これらの結果は投稿準備中である。 三角形ABC内部に位置する物質としてκ-型(BEDT-TTF)2Yの研究を行なった。Y=Cu[N(CN)2]Iでは格子定数が異なると物性まで異なるという特徴をうまく利用することで、伝導性と「動的組成比」が連動する様相を探索した。25年度は超伝導にならない結晶の構造解析に成功した。この結果は、対称性の低下によってN/Eが増加するという分光実験の結果と一致した
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
25年度始めに異動があったため、研究環境の整備からはじめることになった。更に悪いことに、Sprin-8での再実験の日程調整がうまくいかず、しかも、X線構造解析装置の停止や、PPMS物性測定装置の稼動開始時期の遅れといったトラブルも重なった。そのため、当初計画よりも実験ペースが遅くなってしまった。その代わりに、分子軌道準位の逆転が及ぼす諸効果を考察することに時間をかけた。この考察は大変有意義であった。これまでは、分子性導体は点電荷近似という漠然とした扱い方で議論されてきた。一方、この考察により隣接分子軌道の位相関係を明確化できたので、分子間結合とクーロン斥力の関係もうまく整理できるようになった。その結果、電子相関と基底状態の関係を明確化できた。この成果の意義は、X[Pd(dmit)2]2塩の動的組成比の理論的根拠を示すことだけにとどまらない。もう一つ重要な意義とは、分子軌道の任意性を機能変換に利用できることを示せたことである。その結果、後者の観点による共同研究(軌道の任意性を活かした光相転移)も進展を見せた。この「軌道の任意性」とは、単一成分金属における「分子軌道の自由度」には収まりきらない概念である。この概念を理解してもらうよう論文化するのに、大変困難な作業を強いられたが、何とかX[Pd(dmit)2]2塩に関する論文を2報発表することができた。また、κ-型(BEDT-TTF)2Yの研究でも、結晶の構造解析ができたので、一定の進展があった。研究成果は、論文だけでなく、国際会議や招待講演でも発表した。従って、異動や装置トラブルといった制約がある中で、何とか研究を進展させることができたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
26年度は、まず、スピン液体として注目されているX[Pd(dmit)2]2塩(X=EtMe3Sb)の実験結果を論文化させる。輸送現象測定や磁気測定では、極低温まで秩序化しないという挙動だけでは説明できない異常が指摘されている。このような異常な挙動を分子軌道の任意性という観点から探る。また、分光学的な意味において、本当に三角格子に近いと言えるのか、もし三角格子からずれているのであれば、低温まで秩序化しない原因は分子軌道の任意性に拠るのか、という観点からも議論する。 反強磁性のX=EtMe3Asでも、動的不均一性の比が単純な見做しモット絶縁体の値N/E=2とは異なるという結果を得た。このような状態が反強磁性と共存できる理由を十分に検討したうえで論文化を行ないたい。κ-型(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Iの研究では、常圧で完全反磁性になる試料の量産を試み、実現したら新たな共同研究を始めたい。β-型(BEDT-TTF)2Y塩(Y=ReO4)の分光実験では、N/E>4が示唆されるような複雑な2次元構造を示すことが分かってきた。そこで、低温構造解析を行い、分光実験の裏づけを行いたい。κ-型塩や、β-型塩でも一定の成果を得られた時点で、論文化を行なう予定である。 このようにして、三角形ABC(A:三角格子、B:(擬)正方格子、C:擬一次元)の各位置に相当する超伝導物質のN/E比に関する共通性を探索する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
装置使用料や関連物品の購入経費などに大幅な未使用額が生じた。以下に理由を示す。24年度のSPring-8での実験では、先方のトラブルにより、25年度に再実験が必要になったが、25年度は再実験の日程調整ができなかった。そこで、ラマンスペクトル測定に切り替えたが、測定原理の特性から、実験時間が長くなってしまう。このため、26年度まで延長する必要があった。25年度秋導入予定であったPPMSと、今夏故障したMPMSの稼動開始時期も大幅に延びた。X線構造解析装置も長期停止した。 25年度にできなかった測定を26年度に行なうこととし、未使用額はその経費に充てる。具体的には、ラマンスペクトル測定に適合した低温用物品の購入、X線構造解析・SQUID磁束計・PPMSなどの機器使用料(寒剤を注ぎ足すための費用も含む)、抵抗測定のための部品加工料、学術的会合の費用などである。
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Research Products
(16 results)
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[Presentation] 時間分解電子線回折によるMe4P[Pt(dmit)2]2における光誘起構造変化ダイナミクスの直接観測2013
Author(s)
石川忠彦, 沖本洋一, 恩田健, 腰原伸也, Stuart A. Hayes, Sercan Keskin, Gaston Corthey, 羽田真毅, Kostyantyn Pichugin, Alexander Marx, R.J. Dwayne Miller, Wawrzyniec Kazub, Maciej Lorenc, 山本貴, 野村光城, 加藤礼三
Organizer
日本物理学会第69回年次大会
Place of Presentation
東海大学
Year and Date
20130327-20130330
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