2012 Fiscal Year Research-status Report
電気化学X線吸収分光法による水分解用光電極の励起キャリア移動のオペランド観測
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24750134
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
吉田 真明 慶應義塾大学, 理工学部, 助教 (00582206)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 水分解用光電極 / X線吸収分光法 / エネルギー変換材料 / 電気化学 / 励起キャリア移動 |
Research Abstract |
近年、太陽光で水から水素を製造する半導体光電極の研究に注目が集まっている。n型光電極内部で励起したホールは水を酸化して酸素を生成し、電子は対極上に移動してプロトンを還元して水素を生成する。このとき、酸素生成サイトとなる助触媒を光電極表面に修飾すると、光電極の性能が著しく向上することが報告されている。しかしながら、助触媒が機能している状態で触媒表面を観測した報告例は少なく、その場測定により光電極・助触媒界面での電荷移動を観測することが望まれている。そこで、本研究では、X線吸収分光(XAFS)法により光電極上の酸化マンガンの電子状態を測定し、光電極内部で生成した励起キャリアが酸化マンガン助触媒へ移動する様子を観測した。 本研究では、酸化マンガンを修飾したNb:SrTiO3単結晶基板を用いた。In-situ XAFS測定は、Photon FactoryのBL12CおよびSPring-8のBL01B1において行った。ポテンショスタットにより電極電位をコントロールし、キセノンランプによる紫外光照射を行いながら、酸化マンガン助触媒のMn-K端XAFS測定を行った。 電極電位を1.0 Vに保って暗中でMn-K端XAFSスペクトルを測定すると、3価に帰属されるマンガン種が観測された。続いて、紫外光照射を行うと、スペクトルが高エネルギー側へシフトし、3価のマンガン種が4価に酸化される様子が観測された。これは、Nb:SrTiO3光電極内部で生成した励起ホールが酸化マンガン助触媒に移動したことを意味しており、XAFS測定により助触媒への励起キャリアの移動を観測できることを見出した。さらに、このスペクトルのシフトは光電極活性とある程度相関があることが分かり、本研究により触媒表面の観察から光電極活性を議論することが可能であることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在のところ、当初の目的であったin-situ XAFS法による酸化マンガン助触媒への励起キャリアの移動を観測できており、実験計画通りに進んでいると考えている。これまで走査型プローブ顕微鏡や紫外・可視吸収分光測定システムを利用して酸化マンガンサンプルの調製法を確立し、放射光施設でスムーズに測定を行えている。そのため、現在は、キセノンランプにバンドパスフィルターや減光フィルターを装着するなど反応条件を変えてXAFS測定を行っており、紫外光の波長や光量によりXAFSスペクトルに変化が見られることを見出している。この変化の仕方は光電極反応の活性により影響を受けており、今後の実験では活性との相関を詳細に分析する必要があると考えている。 これまで得られた成果はすでに学会で発表しており、論文にまとめて海外の雑誌に投稿中である。今後の実験で光電極活性とスペクトルの相関が得られれば、より興味深い成果として外部発表できるものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究で、光電極へ印加する電位や照射する紫外光の光量によりXAFSスペクトルの変化が異なることを見出しており、励起キャリアの移動は光電極活性と相関があることを示唆している。そのため、今後の実験では、光電極反応で生成した水素・酸素ガスを検出するシステムの開発を行い、光電極活性を定量的に評価することを計画している。このシステムは3つの領域から成り立っており、密閉したアルゴンガス雰囲気のXAFS測定セルの大気圧部分と、ガスをサンプリングしてロータリーポンプで圧力を下げる低真空部分と、ターボ分子ポンプユニットに質量分析計をつないでガスの測定を行う高真空部分からなる。紫外光照射下で光電極反応を行い、電磁バルブを使って一部のガスをサンプリングし、生成した水素・酸素ガスを質量分析計で検出する。このシステムを用いて、調製した様々な光電極サンプルに対して、in-situ XAFS測定を行っていく予定である。 一般的に、光電極材料は、助触媒の電着量を増やすと表面での反応サイトが増加するため光電極活性が増加するが、電着量を増やしすぎると電極活性が減少することが知られている。そこで、本研究では、酸化マンガンの電着量を変えたサンプルを複数調製し、光電極活性の減少が助触媒への励起キャリアの移動に起因しているかどうかを調べる予定である。また、近年、高活性な酸素生成触媒として働くと報告されているリン酸コバルトやホウ酸ニッケルを光電極表面に修飾したサンプルでも測定を行い、光電極材料と助触媒の界面が励起キャリアの移動に与える影響を調べ、光電極活性とどのような相関があるかを明らかにすることを検討している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度にあたる平成25年度は、物品費1,100,000円、旅費400,000円、その他40,500円で合計1,540,500円の直接経費の使用を予定している。 まず、光電極反応で生成した水素・酸素ガスを検出するガスサンプリングシステムの開発のために、必要な器具の購入を行う。すでに四重極の質量分析計や超高真空にするためのターボ分子ポンプなどの器具は揃えているが、圧力計やロータリーポンプなどの真空機器がないため、本予算で30万円ほど購入する計画である。また、そのための配管やバルブなどの真空部品として20万円、酸素やアルゴンなどのガスとして10万円、セルの制作として10万円を予定している。前年度と引き続き光電極反応のin-situ XAFS測定を行うため、光電極の単結晶として20万円、試薬10万円、電極10万円などの消耗品を購入する。 茨城県のPhoton factoryや兵庫県のSpring-8の放射光施設で実験を行うため、往復の交通や宿泊のための旅費を必要としている。実験は年5回ほど1週間程度行き、年間20万円ほど使用する。本年度は外部への成果発表を広く行っていくため、国内の移動や海外への渡航費用として20万円ほどの旅費と、学会参加費として4万円ほどのその他の費用を使用する予定である。これにより、本研究で得られた光電極に関する知見が光電極材料の研究開発に有用であることを周知していきたいと考えている。
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