2012 Fiscal Year Research-status Report
水素結合性フォトクロミック分子を用いた有機強誘電体結晶の光制御
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24750136
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
森本 正和 立教大学, 理学部, 准教授 (70447126)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 分子性固体 / 誘電体物性 / フォトクロミズム / 水素結合 / 有機強誘電体 |
Research Abstract |
1.光異性化によりプロトン移動挙動を変化させる水素結合性フォトクロミック分子の設計と合成 分子間水素結合が可能なイミダゾール部位と光反応部位を融合したフォトクロミック分子の開環体と閉環体について量子化学計算を行ったところ、2つの異性体でイミダゾール窒素原子近傍の静電ポテンシャルが異なり、光異性化により酸・塩基性度が変化することが示唆された。これは、光異性化に伴う結合組み換えによってイミダゾール環の電子構造が変化するためと考えられる。この結果に基づき、イミダゾール環に様々な置換基を導入したフォトクロミック分子を合成した。いずれの誘導体も溶液中で可逆的なフォトクロミズムを示した。紫外光により閉環体が生成した着色溶液を暗所下で放置するともとの無色に戻ったことから、熱可逆なフォトクロミズムであることが分かった。これは光異性化に伴う芳香族性の喪失による閉環体の不安定化が大きいためと考えられる。フォトクロミック分子の基本性能を制御する上での重要な知見を得た。 2.水素結合性フォトクロミック分子の結晶構造、強誘電物性、光反応挙動の測定と解析 合成した分子の単結晶を作製し、X線構造解析により結晶構造を調べた。予想した通り、イミダゾール部位の分子間水素結合により極性をもつ一次元鎖構造を形成していた。イミダゾール部位のN‐H水素原子は隣接鎖間で反平行すなわち反強誘電的な配向をとっていた。光反応部位は光異性化が可能な立体配座をとっていた。単結晶試料について誘電率の温度依存性を測定したところ、100~350Kの温度範囲で明確な誘電異常は観測されなかったことから、相転移温度はそれよりも高温域にあることが示唆された。また、単結晶は紫外光と可視光の照射により可逆的なフォトクロミズムを示した。水素結合一次元鎖構造を形成し、なおかつ光反応性を示す有機分子結晶を合成できることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
物質合成については問題なく順調に進行し、反応ステップ数の少ない合成経路により様々な誘導体を合成することができた。また、合成した誘導体はいずれも溶液中でフォトクロミズムを示した。フォトクロミック分子の異性化反応の熱可逆性は、室温付近で完全な光制御を行う上では問題となるが、分子のアリール環を変えることにより閉環体の熱安定性を向上させることが可能と考えている。 単結晶作製についても簡便な溶液からの再結晶法によりX線構造解析に適した単結晶を作製することができた。X線構造解析の結果から、当初の予想の通りにイミダゾール部位の分子間水素結合により一次元鎖構造を形成すること、また光反応部位が光異性化に適した立体配座に固定されることが確認され、実際に単結晶状態でフォトクロミズムを示した。また、単結晶試料について誘電率の測定を行い、電気物性についての知見を得た。 以上のように、単結晶状態で水素結合性と光反応性を併せ持つ新規分子を合成したことは光応答性有機強誘電体へ向けての重要な結果である。よって、本研究課題はおおむね順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、様々な置換基を有する水素結合性フォトクロミック分子の合成を行う。平成24年度の研究により熱安定性の改善の必要性があることが分かったため、アリール環を変えた分子を合成し、光異性化による芳香族性喪失の度合いを小さくすることにより閉環体の熱安定性の向上を試みる。量子化学計算も並行して行い、実験と計算の両面から機能改善を行う。合成した分子の単結晶を作製し、結晶構造と誘電物性、光反応性の測定・解析を行う。 強誘電性と光反応性が確認された結晶について、紫外光および可視光を照射し、光異性化に伴う強誘電物性(誘電率、分極履歴曲線、キュリー温度)の変化を観測する。単結晶試料について電気物性と顕微分光の測定を行うことにより、光反応の進行と物性変化挙動の相関を精査し、光応答性を評価する。得られた知見を新たな分子設計へとフィードバックして物質合成を行い、強誘電物性と光反応性を調整し、機能改善を行う。最終的には室温における熱的に安定で可逆な強誘電物性の光制御を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度の研究費に残額が生じた主な理由は、反応条件の予備的検討をしなくとも物質合成が順調に進み、物品費(試薬やガラス器具の購入費用)が当初の予想よりも少額で済んだため、またその他として論文投稿料や複写費を計上していたが当該年度は特に必要性が生じなかったためである。 平成25年度は、平成24年度の残額と合わせて、置換基やアリール環を変えることにより機能を改善した分子を合成するための試薬やガラス器具、電気物性測定のための導電ペーストや導線の購入費用として有効に使用する予定である。また学会発表のための旅費としても使用する。
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Research Products
(4 results)