2012 Fiscal Year Research-status Report
イワムシ糞中における多環芳香族炭化水素(PAHs)分解挙動の解明
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24750150
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Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
小野里 磨優 東邦大学, 理学部, 博士研究員 (50610094)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 環境分析 / 多環芳香族炭化水素 / 干潟 / 環形動物 |
Research Abstract |
代表者は干潟環境中での多環芳香族炭化水素(PAHs)の動態を明らかにする過程において、環形動物であるイワムシ(Marphysa sanguinea)の糞にPAHsが高濃度に濃縮されること、及びその糞中に含まれるPAHsが短時間で分解されることを見出してきたが、PAHs分解に関与する因子についてはまだ特定には至っていなかった。そこで、平成24年度は、ガラスビーズにピレンを吸着させた「汚染ビーズ」を作成し、そこへ「海水+イワムシ糞」を添加することでイワムシ糞中に含まれる“PAH分解に関与する因子”によるピレン分解反応を起こさせ、ピレンの濃度低下を調べると同時に代謝体であるPAH-OH(ヒドロキシピレン)の定量を試みた。 1. 反応系からピレン及びヒドロキシピレンを検出するための前処理法の確立: まず反応系を「汚染ビーズ」と「水」とに分離した。前者からはヘキサン抽出によりビーズ表面に残存したピレンを回収した。後者からは、塩酸によりpHを調整してからヘキサン抽出し、続いてカラムクロマトグラフィーの際に2種類の溶出液を用いることでピレンとヒドロキシピレンの分画をそれぞれ得た。 2. ピレン及びヒドロキシピレンの測定: ピレン及びヒドロキシピレンの測定については、同期蛍光分光法を用いた測定法を確立した。 3. 本実験: PAH汚染ビーズにPAH養老川河口干潟にて採取したイワムシ糞と海水とを添加し、2時間反応させた後に冷凍保存した。それを解凍、前処理し、ピレン及びヒドロキシピレンの検出をおこなった。しかし、ガラスビーズ上からピレンがさほど減少しておらず、ヒドロキシピレンも検出されなかった。これは、ガラスビーズに添加したピレンが高濃度すぎたために、今回使用したイワムシ糞の添加量では不十分であり、顕著なピレン濃度低下が確認出来なかったのではないかと推測された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
汚染ビーズを用いたピレン分解実験については、前処理及び測定法を確立できた点では大いに達成できたと考えている。汚染ビーズからのピレンの回収はヘキサン抽出し、カラムクロマトグラフィーによる精製をおこなえば十分であった。一方で、ヒドロキシピレンはピレンよりも水溶性が高いために、ヘキサン抽出をしただけではヘキサン層へと分配されなかった。そこで、塩酸を用いて水相のpHを下げてからヘキサン抽出をすることで回収率を向上させた。また、カラムクロマトグラフィーの際にも溶出液としてアセトン/ヘキサンを用いただけではヒドロキシピレンを溶出させることができなかったため、酢酸エチルを混合させた溶出液を使用することで、溶出力を向上させ、ヒドロキシピレンの回収も可能にした。 上記の前処理法・測定法は、汚染ビーズへオートクレーブによる滅菌したイワムシ糞を添加、または糞を添加した後に嫌気的条件下で反応させるなど、様々な条件下で反応させた際のピレン残存量を比較することで、イワムシ糞中に存在するPAH分解に関与する因子の絞り込むことを期待して確立した実験系ではあったが、実サンプルを用いた本実験では期待していた結果を得ることは出来なかった。これは、実験の始めに作成した汚染ビーズに吸着しているピレン濃度が高濃度過ぎたためであると推測された。また、ブランク(汚染ビーズに超純水を添加し、反応させたもの)では、反応時間を延長すると、より多くのピレンが水から回収される傾向にあることも分かった。この結果から、ピレンはイワムシ糞中のPAHs分解に関与する因子の有無に関わらず、ガラスビーズ上から水へと移行する可能性があることが示唆された。これらのことを踏まえ、ピレンの初期濃度を適切にし、水からもピレンを回収・定量しさえすればピレン残存量のモニターは可能であると判断することが出来たので、おおむね順調に進展したと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
1. PAHs分解に関与する微生物の解明 寒天培地を用いて、イワムシ糞に含まれる微生物を培養し、PAHs存在下における生育が活発である菌を単離する。続いて、東邦大学医学部嵯峨知生博士の協力のもと同定をおこなうことを予定している。具体的な方法としては、唯一の炭素源としてピレン及び適切な栄養分を添加した寒天培地を作成する。そこへ、養老川河口干潟にて採取、滅菌水に懸濁したイワムシ糞を添加し、培養する(※培養条件・期間は要検討)。培地上に生育してきた菌を採取し、さらにピレンを含む新しい寒天培地に植え継いで培養し、生育が活発な菌を単離する。また、養老川河口干潟にてイワムシ糞を採取できるのは、潮の満ち引きの関係及びイワムシの活動季節などの関係により、例年2月~9月程度までと限定されている。よって、イワムシ糞が採取できる期間に効率よく糞を採取し、直ちに実験に使用しなくてはならない。そのため、上記の培地を用いて単離した微生物を増殖させておくことも予定している。ピレンを含む液体培地に増殖させた菌を添加、振とう培養し、時間経過に伴うピレン濃度の変化を調べることも可能であり、そのピレン測定には蛍光分光法(同期蛍光法)を用いる方向で検討する。 2. PAHs分解能の評価 単離した菌を用いて、実環境中のPAHs汚染試料に含まれるPAHs分解の効率を調べる。すなわち、菌の添加の有無による試料中PAHs濃度の比較をすることで分解能を評価することが可能である。上記1の実験の進行状況にもよるが、養老川河口干潟の底質、人為的に汚染した底質・石油など(海洋に石油などが流出した状況に類似した条件を作成)様々なPAHs汚染区域に対して菌を作用させ、イワムシ糞中に含まれるPAHs分解因子によるPAH分解能を評価することを予定している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
24年度は計画通りに研究は進展しているが、汚染ビーズを用いたピレン分解実験に使用する消耗品費を抑えることができ、残額が生じた。一方、研究室で所有しているインキュベーターの容量が小さく、多数の実験を並行しておこなうことが出来ないために不便が生じている。今後さらに研究をおこなっていくに当たり、容量を大きくしなくてはならない状況になれば大型のインキュベーターの購入も検討しなくてはならない状況である。そこで、この24年度の残額は25年度の研究費とあわせてインキュベーターの購入に充てたいと考えている。 また、次年度に計画しているピレンを含む液体培地に菌を添加し、振とう培養するという実験をおこなう際にはインキュベーターシェイカー、ガラス器具、栓などが必要になると思われる。研究室所有の装置で対応しきれない場合には、これらの装置・消耗品を購入しなくてはならないと考えている。
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