2013 Fiscal Year Research-status Report
常磁性金属修飾糖鎖を用いた過渡的相互作用の動的観察
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24750170
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Research Institution | Institute for Molecular Science |
Principal Investigator |
山口 拓実 分子科学研究所, 生命・錯体分子科学研究領域, 助教 (60522430)
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Keywords | 糖鎖 / NMR / 常磁性 / 立体構造解析 / ダイナミクス |
Research Abstract |
生体内では、分子間の弱い相互作用による過渡的な複合体形成が重要な役割を果たしている。本研究では、弱い相互作用の担い手として糖鎖に着目し、常磁性タグ修飾を施した糖鎖を応用することで、糖鎖の立体構造、ダイナミクス、相互作用様式を系統的に明らかにすることを目指している。平成25年度においては、安定同位体標識と常磁性タグ修飾を活用した核磁気共鳴(NMR)法と分子動力学(MD)計算とを組み合わせ、高マンノース型糖鎖M9およびM8Bのダイナミクス解析を行った。 糖鎖プロセシングに関わる遺伝子を破壊した酵母変異体を安定同位体標識グルコースを炭素源として含む培地で培養し、M9またはM8Bを13Cで均一に標識した。得られた酵母糖タンパク質から調製した安定同位体標識化糖鎖の還元末端へランタニドイオンを用いた常磁性プローブを選択的に導入した後、高磁場NMR計測を実施した。これにより、糖鎖の水素および炭素原子の化学シフト変化から常磁性効果の一つである擬コンタクトシフト(PCS)によるシグナル変化を定量的に計測することで、立体構造情報の収集を行った。 一方、高マンノース型糖鎖のMD計算を実施し、その立体配座空間を探査した。分子シミュレーションによって得られた多数のコンフォマーを考慮した3次元構造モデルからPCSの理論値を算出し、実験値との比較を行うことで構造サンプリングの適切さを評価した。その結果、M9およびM8B糖鎖の立体構造の変動範囲が有意に異なることが示され、糖タンパク質の品質管理に関わる一連の高マンノース型糖鎖の、ダイナミックなコンフォメーション変化を明らかにすることができた。また、常磁性NMR法とレプリカ交換MD法を組み合わせることで、糖脂質ガングリオシドGM1の糖鎖構造のコンフォメーションについても明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、生体分子間の過渡的相互作用の分子科学的基盤を明らかにするための、新規方法論の確立を目的としている。これまでに、糖鎖の安定同位体標識や常磁性修飾によるNMR法と分子シミュレーションを活用することで、水溶液中で揺らいでいる糖鎖の構造ダイナミクスを定量的に明らかにすることに成功してきた。また、安定同位体標識糖鎖を用いて、糖鎖-タンパク質間相互作用のNMR解析についても既に着手している。さらに、化学合成により、安定同位体標識を施した糖脂質ガングリオシドの糖鎖構造や、部位選択的に安定同位体標識した高マンノース型糖鎖の調製を実施している。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに確立してきた糖鎖の常磁性修飾手法をはじめ、分子生物学または化学合成法による糖鎖の安定同位体標識、バイセルなどを活用した分子集積技術、さらにレプリカ交換分子シミュレーションなどの手技を活用し、糖鎖間や糖鎖-タンパク質間の過渡的相互作用の精密解析を行う。これらの手法を、神経細胞膜上に存在する糖脂質同士の動的な複合体や、糖タンパク質の品質管理に関わるレクチンと糖鎖の複合体などに適用しする。これらを対象に、溶液・固体NMR測定によって計測することで、分子間相互作用の様式を明らかにする。遊離の糖鎖のコンフォメーションダイナミクスの定量的な描象とあわせ、糖鎖複合体に関するこのような統合的な理解を通して、生体分子間の過渡的相互作用を解明する手法を確立する。
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Research Products
(10 results)